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 冬籠もり


ぴりりと耳に何か走るものを感じて、アカギは布団の海から顔を出した
底冷えする寒さに身震いして、辺りを見回す
何か浮わつく心地がして、視界の中に隣で眠りについたはずの水野を探した
布団の端から出ている手を見つけてつつくと、指が別の生き物のように蠢き閉じられた
おじぎ草に似ている
更につつくと腕は布団の中へと消えて行った
おおよそ水野がいるであろう膨らみに当たりを付けて布団を捲る
外気に触れて寒そうに目を細める狐を発見した
尺取虫の要領で再び布団の波に潜り込もうとするので両手で囲って捕まえる
まだ眠たそうにしている
こんなに気だるげな狐は始めてみた
心の中が空っぽになった気がして水野を抱き締める


「…どうしたんです」

「軽すぎるんだ、自分の体が、軽すぎて重い」

「何時からです」

「朝起きてから」


水野はアカギの言うことを思案する
徐に立ち上がると外へ続く障子を開けた
外には雪が積もっていた
天気予報で晩の内に大雪が積もると言っていた


「静ですね」


雪が音を吸い込んでしまうので、本当に気配が何もない
余りにも澄み過ぎている


「貴方は聡いですからね、雪が積もるとわかりすぎるのかもしれません」


感覚を塞いでくれる煩わしいものは雪が全て浄化してしまう
そのまま流れ込んでくるのだ、きっと


「あんたの言ってることって、わからない時があるよな」


それがいいんだけれど、とアカギは続ける
水野と話しているとわかっていた世界がわからなくなる
意識が広がるような奇妙な体験だ


「これだけ積もると今日は外に出られませんね」

「ああ」


昨日の内に食料を買い貯めておいて正解だった
水野は先に寝ていた位置に戻る


「もう一寝入りしますかね」

「仕方ねえな」

「やることもないじゃあないですか」


まあ、たまにはいいか。

促されるままにアカギもぼふりと布団に沈みこんだ






軽井川の別荘で雪が降ったら。





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