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 2018/1/1 大晦日


寒空を見上げると星がきらきらと光っていた
星には明るくないので、どれがどの星座なのな殆どわからないがそれでもオリオン座だけは理解出来た。
頂点で一番に輝く星は燃えていた
見下ろせば人っ子一人いない閑散とした住宅地が広がっている
錆びた鉄骨階段を登ると、左手に下げた風呂敷包みが揺れた
角の扉で立ち止まるとポッケから体温で温まった鍵を取り出す
ノブを捻ると湯気が顔にうっすらと吹き付けてきた


「お帰りなさい、いいタイミングで帰って来ますね」


狭い六畳半の和室で炬燵に割烹着姿の狐が足を突っ込んで鍋を食らっていた


「只今、これ」

「あら、昆布巻きですか、気が早いこと」

「幽遠寺のやつが寄越したんだよ」

「あっこに行ってたんですか」

「ああ、ちょっとね」


近頃アカギは彼に不定期に代打ちを頼まれていた
あの人間はさっぱりしていてアカギを無理に組へ引き入れようとしないので、付き合い易かった
アカギが立ち寄った雀荘にふらりと現れると、昆布巻きだけ渡して帰って行ったのだ
上着も脱がずに冷えた手足を炬燵で温めていると、水野から手を洗えと小言が飛んだので仕方なく立ち上がった
鍋は緩くぐつぐつと煮たって蒸気を上げている
台所で水野が綺麗に昆布巻きを皿に装っている
取り皿に具を取って、ポン酢をかけて食べると爽やかな酸味がした
昆布巻きの皿を置くと向かいに狐も座った
鍋と箸が立てる音だけになると、外の鐘が鳴っていることに気がついた
互いに口数が多い方ではないので、黙々と食い進めている
昆布巻きは中の鰊までしっかりと味がついており、醤油と味醂の配合が絶妙だった


「あ、年が明けましたね」

「なんでわかるんだ」

「鐘が止んだでしょう、年が明けてから鳴らすのは一回だけなんですよ」

「そうなんだ」

「明けましておめでとうございます」

「おめでとう」

「初詣はいつ行きましょうね」

「あんたしっかりしたところに行きたがるからな、今日は何時行っても混んでるだろ」

「そうですね」

「それよりもっと縁起に肖ること、しようぜ」


炬燵に乗せられた水野の手を柔らかくアカギの指先が撫でた
おや、と顔を上げると妖しく笑う悪魔がいた
これは明日の予定が総崩れしそうだと、狐はうっすら予感していた






明けましておめでとうございます。
皆様のご多幸をお祈りしています。



「あーた、そんな気の効いた誘い方出来たんですね」

「これやればイチコロだって教わった」

「ああ…」







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