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 駄目大人共…19


「ひっく」

「ひっ」

「倍プッシュ」

「なにを」

「酒」

「酒」


水野は首を左右に定まりなく揺らしながら、時々隣にいるアカギの肩にぶつかったり、倒れそうになると持ち直したりを繰り返している
左手のロックグラスが今にも零れ落ちそうだ
アカギの方も普段の秘めたる鋭利さは何処へやら、右手に同じくグラスを持ったまま、僅かに前屈みになりぼんやりしている
サイドテーブルに置いたボトルには水滴が付き、それは天板にまで小さな水溜まりを作っていた



飲み比べをしようか、そうアカギが言い出したのがこの地獄絵図の始まりだった
二人は手軽なフロント脇のバーでラストオーダーまで注文を続け、やってきたグラス全てを飲み下すと千鳥足で部屋まで帰った
下半身に殆ど力が入らない状態は頼りなく、5階の自室までの廊下が異常に長く感じられた
やっとの思いで部屋へ帰ってくると勝負はまだ付いていないので、内線でルームサービスを頼んだ
やがてウィスキーの瓶数本と氷、水、グラスがやってくる
そこまで来ると当初に決めた、アルコール度数を考慮して同じ種類のものを一杯ずつ開けるルールも何処かへ行き、好き勝手に量を比べ始める

水野は途中でストレートやオンザロックにも飽きて、アマレットでカクテルにしていた


「もしもし、ルームサービスをお願いしたいのですが…アカギさん、なににします」

「ウイスキー」

「ジャックダニエルを、はい、ボトルでお願いします」


普段ははっきり話す水野も呂律が回っていない
受話器を置くところりと床に転げそうになったが、二の足で踏みとどまりベットに沈みこんだ座っていたはずのアカギも水野の上に容赦なく倒れこんで来るので、下からぐえと蛙が潰れるような声が上がった
ギブアップの手が背中を叩いているにも関わらず、アカギは夢の中に旅立とうとしていた
水野がなんとかアカギを揺り起こすと、上から縫い付けるように口付けをされた
顔を見ると思いの外、意思の籠った視線と重なった


静かな空間に、チャイムが響く


アカギが退いてウイスキーを受け取った
水野も重い体をなんとか起こす
サイドテーブルのグラスに氷を追加しておいた
アカギがキャップを開けて、グラスに並々と中身を注いだ
水野が三分の一ほどを飲み下すと頭がくらくらした
喉が焼けるようだ


「あー…」

「中々潰れねぇな」

「…もう限界ですか?」

「冗談」


既に頭痛が始まっている
ぼんやりする意識を払うために頭を軽く振ると今度は吐気がせり上がって来た


「…うぷ、気持ち悪い…」


水野はそう呟くとよろよろと厠に入っていった
暫くするとアカギにも吐き気は降り掛かり、部屋に一つしかない厠の戸の前で立ち往生をすることになった


「…水野さん、早く、出て」


ゴン、ゴン、と重い音を扉は立てている
アカギが体重を前に乗せて頭突きをする音だ
突きと言うにはそれは余りにも鈍く、重心を一定に保てない次いでに俯いた頭が扉にぶつかっているのが正しい

アカギの催促空しく、水野は厠で伸びていた



翌朝、厠の扉に凭れかかって眠っているアカギは、チェックアウトの時間を知らせる電話で目を覚ますことになった。







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