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 真心を貴方に…19


「今日は食事はご自分で作って頂けませんか」

「どうしたの」

「具合が悪いのです」


朝食は何時ものように手料理を食べた
水野がこう言い出したのは昼前だった
見たところによると常と変わらないように見えた
しかし、日頃料理を三食、文句も言わずに作り続けている狐が言い出すのだから矢張何処か悪いのだ


「わかった。薬は?」

「大丈夫です」


それだけ言うと水野は寝室の襖を閉じた
今日は一日横になっているつもりなのだろう
狐は余り弱っている姿を晒さない
病気をしているところ自体、初めて見た
見た目よりも症状はずっと重いのだ
アカギは立ち上り、冷蔵庫を開けるが中身は殆ど空だった
米はあるはずだからいっそお粥にしてしまおうか。
それなら冷蔵庫の僅かな菜のもので滋養のあるものが作れそうだ
アカギは袋から2合分を用意し、金盥を出して早速米を研ぎ始めた




水分を帯びる米の独特の匂いが寝室を満たしていた
意識はぼんやりしていたが内側から沸いて出る痛みに眠ることは出来なかった
水野は起き上がって側の煙草に手を伸ばしたが、屈んだ拍子に起こった腹痛で吸う気が失せてしまった
襖の向こう側でガスコンロを捻って止める音がした
アカギが調理をしていたのだ
てっきり出前か、外で食べてくるだろうと思っていたので意外だった
水切りからガラス食器を動かす様子や、引き出しから箸を取り出す場面が用意に音で想像できた
襖が開くと盆に料理を乗せたアカギが入ってきた


「お粥作ったけど食べられる?」

「ありがとうございます」


盆を受け取ると水野は膝の上に乗せた
蓮華を手に器用に粥を食べていく
ゆっくりと咀嚼しているので余り食は進まないようだ


「そうじっと見られていても困りますよ」

「そう」


一度は出ていったと思ったのだが、アカギは隣に自分の分を持ってきて畳に胡座をかき、食べ始めた
心配をしてくれているらしい
例のごとく無言で食事を食べ終え、食器をアカギにお願いして水野は再度横なった


「何処が悪いんだ」

「腹です」

「ふうん」


ここまで言えばわかると思ったのだが、ぴんと来ていない様子だった
やはり博打の外のことになると、アカギは何処か抜けている


「生理痛ですよ」

「へえ」


まさか年増だとはいえ、自分の月経が終わっていると思われていたのだろうか


「女は誰でもなるって聞いたけどそんなに重いのか」

「人によります」

「あんたは」

「時々しんどいですね」


そういう時はどうしたらいい、とアカギが至極真っ直ぐに聞いてきたので、水野もそれに感化され望むことを包み隠さずに言ってしまった


「傍に居てください」


アカギの瞳孔が少し大きくなった
布団の下に足を滑らせ、水野との距離を縮めると、隣に横になり水野の腹に手を置く
腹を温めているのだ
この悪魔にこんな優しいことが出来るのかと水野は舌を巻いた
アカギは真顔で水野の動向を伺っている

人の体温はどうしてこんなにも心地好いのか。

下腹部の痛みは和らぎ、睡魔が襲ってきた
うとうとし始めた水野にアカギも眠る体勢に入る
眠りの縁でアカギが水野の手を握った
絡めた指先から脈を打ち、熱は熱いくらいで広がっていく
この頃は、隣に体温を感じながら眠ることが多くなった
自分はその熱に溶かされている
それを心地好いと思っている
それだけで水野は生きていける気さえするのだ






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