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「…どうぞ」

「ありがとうございます」


初対面でその反応はどうかと思うが、何か理由があるのだろうか
ゆっくり立ち上がると着物の裾を引き摺って、少女は風呂に入っていった
どういう訳だか、写真に映っていたままの容姿の水野が今風呂に入っていった
着物は写真と違うものであったが、これはどういう経緯になっているのか
部屋はアカギのものに違いないので、過去の水野がここに現れているということだ


元の水野はどこに行ったのだろう


とりあえず腹が減ったので台所に立つ
冷蔵庫を見ると昨日の食材があるので、適当に水野の料理を真似て作ることにした
よく水野が調理をしている姿を見ており、レシピを覚えておくことは造作も無かった
アカギが後ろから見ているとたまに水野は解説もしてくれた


朝食を作り終えると丁度水野が風呂から出てきた


「申し訳ありません、昨日の記憶が無いのですが、ここはどこでしょう。旦那様のお知り合いですか」


旦那様とは、何らかの形で仕えている主人のことだろうか
恐らく写真に映っていた老人


「覚えている限りでいい、あんた、ここに来るまでに何してた」

「…」


アカギのことを疑っている様子だ
彼女にとってはアカギの素性がわからないので、仕方の無いことではあった
ただ、この状況をアカギにどう説明できよう
このまま黙っていても埒が明かない
アカギは溜め息を一つ吐くと、水野に朝食を勧めた

他に宛もないので水野は座って朝食を食べ始めた


「…昨日は、いつも通り旦那様のお屋敷に居ました。庭で一日過ごして、夜は旦那様のベットで眠りに着いたはずです」


外見に似合わない丁寧な言葉使い
話の内容で水野が幼い時分から情婦紛いのことをやっていたことを理解した
鳩尾にどろどろしたものを感じたが、アカギはおくびにも出さなかった


「ここはどこですか」

「昭和39年の未来って言ったら信じるか」

「からかわないでください」

「本当さ」


きっと睨んでくるのを無視して、ポケットの硬貨を確認し、水野に見せる
38年のものだが、十分に証拠になるだろう
愕然とした表情で水野が凍りつく
こちらの水野は感情も表情も豊かだ


「なんなら外に出てみるか?」

「貴方は誰です」

「赤木しげる。未来のあんたとここに一緒に住んでいる」

「雇われているのですか」

「いや…唯の連れさ」

「本当になんの理由もなく一緒に住んでるの」

「そう」


水野は目を伏せて何かを思案しているらしかった
子供の頭をいくら捻ったって解決策は浮かばないだろうに


「あんた、麻雀は出来る?」

「ちょっとなら」

「…やろうか、今から」

「え」


食べ終えると早速寝室の隅にある麻雀卓を持ってくる
アカギに少なくとも敵意が無いことを感じて、水野も渋々卓に着いた






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