8-2
玄関の扉を開け、明かりを点ける
寝床の襖は閉められているので、水野が起きることは無い
麻雀をして重い体をそのまま脱衣所へ直行させ、蛇口を捻って浴槽へお湯を溜める
脱いだ洋服を篭にかけ、風呂に入った
元々浴槽へ入る気は無いので桶で掬う分のお湯があればいい
汗を流し、さっぱりして出てくると、篭に入れたズボンに写真が入ったままだったのを思い出した
取り出して改めて眺めてみるが、あどけなさに少し影を落としているくらいなもので、これが今の水野になるとは到底思えなかった
諦めに染まっていて、道を切り開く強度がない
寝床へ足を踏み入れ、そっと布団に入る
暖かさに、風呂以上に全身が弛緩する
一人暮らしには無かった体温がそこにあった
消耗した脳に暖かい布団は眠気を誘う
写真をその辺に適当に置くとアカギは眠りについた
朝日でアカギが目を覚ますと、隣にはまだ横になっている背中があった
昨日は特に水野が疲れるような用事は無かったと思うが、珍しいこともあるものだ
眠い頭でよくよく見ると見慣れない派手な着物の柄である
果たしてこんなものを持っていただろうか
かなり気崩れている
体も小さく見えた
布団から出ようとアカギが身動ぎをしたことで、掛け布団が引っ張られ、向けられていた背中がぴくりと動いた
背中を向けたまま気だるげに手を付いて、体を起こす
こちらを一瞥した、子供は眠そうな目でこう言ったのだ
「…お風呂を借りても良いですか?」