7-5
「ロン」
水野が倍満の手配を広げてみせる
その辺のものでは、歯が立たない
周りが知らない男達だらけでも、水野は飄々とした態度を崩さなかった
丁度半荘が終わったので、袖から煙草を取り出した
マッチを擦り、火を着けると、流し目で吸ってみせる
流石に面子が立たないと思ったのか、インテリが注文を付けてくる
「やっぱ、なんか賭けるもんがねえとなあ。あ、脱衣麻雀とか、どうよ」
外郎の笑い声と共に水野にねっとりとした視線が注がれる
着物の下を想像しているのだろう
水野の所作はの一つ一つは周りを魅了した
この話題が出る前に既に羨望に混ざって違う感情を帯びた視線があることに当人も気がついていた
行く行くはこういったことになることも、予想はしていた
女ならばこれで身がすくむと思ったのだろうが、狐は男社会で生きてきた、このくらいのことは日常茶飯事だった
「そんなに素っ裸になりたいのなら、お相手しますよ」
煙草を灰皿で消し、勝負の炎を灯した瞳は洗牌に取りかかった
東場が終了すると水野の勢いに戦いたのか、
男達の顔色が青くなってきた
親の時に水野が上がりまくったので、他家は全員パンツ一枚になっていた
ゲーム開始から三人で通しをやっていたが、水野には効かなかった
「私を毟ろうってんですから、脱いでもらいますよ、最後まで」
水野は帯締めを取ったくらいなので、なんら変わりがない
そろそろ引き上げ時だが、極めつけがない
虎の子のドスがあれば良かったのだが、意識を失った時に押収されており、離れた壁に立て掛けられていた
特に目を白黒させているのは側で高みの見物をしていたインテリだ
自分が言い出したことで組の面子に泥を塗っては舎弟達からリンチにあっても可笑しくはない
震える唇で遂にこんなことを言い出した
「あんたこんなに強いんだからよ、目隠ししてやってみせてくれよ。な、それくらいのハンデがあってもいいよな」
立ち上がると最初に水野を縛っていた手拭いを取ってやってくる
なんとしてでも麻雀で勝つつもりだ
「それは筋違いってもんじゃないですか」
「うるせえ!」
怒鳴り付けると、水野の頭を鷲掴みにして、卓に捩じ伏せた
全く横暴である
逃げ出す機会をこの事務所に来てからずっと伺っていたが、自分よりも力の強い男達の目を掻い潜って外に出るのは至難の技だった
他の男にも取り押さえられ、目元を隠されてしまった
自分達の優位に男達の余裕が戻った