6-1
箪笥の中のつげ櫛を取り出して、鞄に仕舞った
衣類は殆ど出して、仕分けは住んでいる
こうしてみると、やはり身の回りのものが少ないのだと思う
女性は何かと必要なものが多いが、消費するものも、そうでないものも、必要最低限で、他は全て転居の時に人に譲るか、捨ててしまう
勿体ないので、極力借りるだけで持たないようにしてきた
この家も賃貸で、大家には今日出ることを連絡済みだ
煙草と財布を袖に入れて、準備が整った
最後に部屋をぐるりと見渡して、戸の前で一礼をした
この家でも様々なことをした
縁側や台所は思い出すだけでも何気無い風景が甦る
自分は旅館やホテルに泊まり続けるのは性に合わないので、必ず家を借りていた
どの家も一年以上は居た
それでも住み続けることは無い
自分は家と一緒に思い出を捨てているのだ
木製の階段をそっと降りて、居間にいるであろうアカギの元へ行く
襖を開けると、アカギがボストンバックを手に立ち上がった
見慣れた廊下を歩き、下駄に足を通す
最後に玄関の戸を閉めた
青空と畦道を風が吹き抜ける
「行こうか」
「ええ」
差し出される手を取った