5-2




どうしてこうなっているのか
砂の上の敷きものに座りながら、水野は考える
風が砂を攫い、時々頬に当たる
岩の影に隠れるように座っているので直射日光は避けているが、影から追い出された足は絶えず日射しと吹き抜ける砂に晒されている
目が痛くて、手首で目元を隠した


昨日は、いつも通り晩飯を食べて寝た
翌日海に誘われた、断った、そこまでは良い
そこから賭けになったのだ、勝負はコイントス
水野は運に恵まれている訳では決してない
言わずもがなあの悪魔に負けて、ここまで連れてこられてしまった

暑苦しい着物を来てこんなところにいる
人がいないのが唯一の救いだ

しかし、この時期に人っ子一人いないとは、どういうことだろうか
汗が煩わし過ぎて立ちあがり、下駄を脱ぎ捨て、やってくる波に足を浸した


「着物、濡れてるぜ」


ここまで連れ出した悪魔は、先ほどまでどこかに行っていたのだが帰ってきたらしい
振り返るとビールとラムネ、どこから買ってきたのかかき氷、焼き鳥を持っている


「はい」


ラムネを手渡されたのでその場で封を開け、口を着けた
傾けるとビー玉がからんと音を立てる

アカギも普段となんら変わらない格好をしていた

レジャーシートに腰を落ち着けて、焼き鳥をむしゃむしゃ食べている


「水着、借りてくるべきでしたね」

「いや、あんたの肌を他の人間に見せたくない」

「そりゃ、年増でそこまで露出はしませんよ」

「そういう意味じゃねえんだけどな」


海の強烈な冷たさにも慣れ、体が涼しくなってきた
もっと全身を冷やしたいという衝動に駆られる

ラムネを砂浜に埋めるように立てると、水野はばしゃばしゃと深いところまで進んでいく
砂を水の中で蹴っ飛ばしたので、爪に入った
腰まで水かさのある場所で止まると、水野そのまま笑顔で体を後ろに倒した


「あらら」


アカギの顔が水に消えた
着物が急速に水分を吸い、重たくなる
水面を通して、空が見えた
流れのせいではっきりものが見えないが、とても居心地が良い
重くなっていく着物に反して、体は開放的だ
自分から吐き出される泡がぼこぼこと鳴っている

底に行けば行くほど水温が冷たくなる


このまま死んだっていい


水面に白いものが写り込んだ
背中と膝の裏に腕が回って力ずくで一気に引き上げられる


「何してるの」

「こうすると気持ちがいいのですよ」


下手すると着物の重さでこの浅瀬でも溺れるが

水野の長い髪が波に揺蕩っている
流れてひらひら揺れる袖は、魚類を連想する
下を見るアカギの前髪から雫がぽたりと落ちた


「破滅的だな」

「地上は煩わしいのです」


アカギも水野を掬い上げる時に水の中でしゃがんだので、全身濡れてしまっている


「着替えがないです」

「俺もない」


ぺったり髪が張り付いた頭を見合わせる

何をしているのか。

馬鹿らしくて水野が笑うとつられてアカギも笑った







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