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「ねえ、どうやったら惚れた人って落とせるの」

「なんだ、藪から棒に」


安岡に久しぶりに呼び出された
薄暗いバーのカウンターに並んで掛けて、煙草を燻らせる
目の前には飲み干したビールジョッキ
やくざの代打ちの頼みを聞くついでに、アカギはそういったことを知っていそうな安岡に聞いてみた


「お前が色恋に興味があるとはな」

「オレもびっくりしてますよ。まあそうなっちまったものは仕方ない」

「どんな女なんだ」

「女かどうかも怪しい」

「なんだそりゃ」

「13の頃からの知り合いで、鷲巣戦の後、七年ぶりに会って、今居候してるんです」

「端から聞くと順調そうだが」

「それがそうでもない。触らせちゃくれるが、殆ど脈無し。俺の事をガキだと思ってる」

「年上か」

「ええ。下手すると一回りは上」

「性格は」

「泰然自若。飄々とした雌狐。身なりは簡素で俺と同類の無頼。四季を大切にしてて家庭的」

「なんか凄いな…」

「で、どうしたらいい」

「そうだな…一般的なアドバイスが役に立つとも思えないが。一先ずデートに誘ったらどうだ」

「デート」

「喜びそうな場所に連れていくんだよ」

「それらしい場所には今までも行ったことがある」

「普段行かない場所に行くのはどうだ」

「というと」

「この時期だから、行く場所は沢山あるだろう。…海はどうだ」

「海」

「上手くいけば水着も見れて目の保養だ」


水野は普段着が和装なので、肌を殆ど出さない
滅多にない、洋服を着たときに足首や手首が露出するくらいだ
以前さらしだけになっているところを見たが、あの肌が惜しげもなく晒されると思うと、どうも眩しかった

しかし、自分と水野が水着で海とはなんと滑稽なことだろう


「面白い。今度誘ってみる」

「お前と同類ってその人も博打打ちなのか」

「幽遠寺組の元代打ち」

「水野もよ子か」

「なんだ、知ってるの」

「ちょっと前までそこそこ名は通ってたぞ。死神だってな」

「へえ、やっぱり有名人だったのか」

「名を馳せていた頃は確かお前くらいの年だった」

「写真とか無いの」

「探せば出てくるんじゃないか」

「100万積んでもいい」

「相当入れ込んでるじゃあねえか」


流石の安岡も飽きれ顔である
アカギにとって100万など端金であるだろうが、アカギが賭博以外に金を積むのは珍しい


「あとはプレゼントはどうだ」

「必要なもんならいいかもしれませんね」

「色気のあるものにしろよ」

「考えておこう」


アカギは煙草を灰皿で揉み消して、立ち上がった


「じゃ、帰ります」

「待て、代打ちは引き受けてくれるんだろうな」

「ええ。あと水野さんのことは他言無用で、少しでも漏らしたら二度と代打ち引き受けませんよ」


そう素っ気なく無く言うとさっさとアカギは出ていった
扉についたベルのカランという音だけが残る

あのアカギが人を好きになるとは、南郷が聞いたらすっとぶだろうなあと、一人安岡は思うのだった







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