4-2




「あの家はまだ残ってるの」


マッチの火がアカギの顔を朧気に照らす
最後に取っておいた線香花火から火花が上がった
水野のものにも火を灯し、膨らんでいく火の玉を見つめる

あの家とは水野が小料理屋を営んでいた場所のことだろう


「家自体はきっと在りますよ、今どうなっているかはわかりませんが」

「そう」


アカギはいつか、見に行こうと思っていた
これまで居たどんな場所よりも彼処は記憶に鮮明に残っている


「彼処にはどのくらい住んでいたの」

「5年ほどですかね」

「あんたがいくつだか、本当にわからなくなってきたな」

「いくつだと思います」

「25はいってるだろ」

「はい、もっと上です」


水野の線香花火が先に終わった
アカギのものもすぐに落ちた


「呆気ねえな」

「そこがいいんじゃあないですか。あともう少し見たいというところで落ちるのが」

「オレはさっきの景気良く燃えるやつのが良い」

「線香花火もたまに凄く派手に燃えるものがあるんです、それも乙ですよ」


蛙の鳴き声が田んぼのあちこちから聞こえる
3メートルほど先は本当に闇で、ものの輪郭一つ捉えられない

次の一本に火をつける


「あんたは世界を儚んでいる」

「そうです。あーたはものが見えすぎて、麻雀以外で相手にするのを止めたでしょう」

「あんたは違う」

「そうですね。私もあーたを儚んじゃいません」


水野の中で世界とアカギは区別されている

見上げると星が良く見える
明かりが殆どないからだ
ここは静かで、水野の落とした声も耳に届く

アカギの花火が激しく燃えて火花をあげる
つられるように水野のものも


「あーたが私よりも長く生きてくれればいいのですが」

「どちらが先に死んでも可笑しくはない」

「ふふ、そうですね」


火花は爆ぜ、先の火玉が爛れて大きくなる
水野の線香花火が先に地面について飛び散った
アカギの花火はまだ盛り、火花をあげ続けている
暫く一人で燃えたあと、力尽き落ちた






[67/147]



戻る


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -