3-2




水野がいつまでも戻って来ない



不思議に思ったアカギがタオルのある脱衣所へ行くと、水野は隅の方で座って身を小さくしていた
具合が悪いのだろうか


「水野さん」


先程よりも大きな雷鳴が轟くと、はっと顔を上げた水野がアカギの腕を引っ張り、庇うように頭を抱いた
流石のアカギも驚いて水野の様子を見ようとするが一向に離してくれる気配がない


「水野さん」


背中を軽く叩いて呼び掛ける
水野の体は震えていた
なんとか体を起こして、顔を見ると水野はきっと目を細めて意識を張っていた
この人にしては相当に動転している


「どうしたの」


向き合った体の隙間を埋めて、外界から守る体勢になった
あやすように体温を分け与える
お互いに水浸しなので、触れた瞬間は冷たいが徐々に体温が広がって暖かくなってくる

水野の体は昔よりも細く、小さく感じた
アカギの肩に顔をうずめる形で浅く呼吸を繰り返している
ぎゅうとしがみつき、何度も落ちる雷をやり過ごす

幾分かしてやっと吐き出される息が落ち着いたものになった


水野はアカギよりも年が上だ、この尋常でない怯え方…アカギが生まれたのは終戦の年。
空襲も水野は経験しているだろう


「花火は打ち上がるのがわかっているので、平気なのですが」


水野の体に巣食っている恐怖ともとれる、後悔のようなもの、それが雷や地震を異常に警戒させた

いつまでも体が強ばっている
アカギが近くのタオルを手にとって水野を覆うようにかける
顎を持ち上げて上を向かせ、濡れて張り付いた前髪を避けた
その目は未だにアカギを見ていない


「あんたらしくねえな」


薄く開いた唇にアカギのそれを重ねた
角度を変えて、何度も啄むと水野が纏う緊張が解れてくる
人に触れると安らぐのはアカギが水野から教わったことだ
水野の目がはっきりとアカギを認識した


「お恥ずかしいところをお見せしました」


アカギの肩に頬をつけ、水野が目を閉じる
覚めながら見る夢とまだ戦っているのやもしれない
それでもここには戻ってきている
水野の隙につけ込む形になってしまったが、それでも頼られていることはアカギに満足感を与える

水野がこの状況で例え一人だったとしても自分で雷をやり過ごしただろう
アカギが居たから回復が早かった、ただそれだけのこと
13のアカギが病気をした時も水野がよく看病をした、それに似たようなことだとアカギは思う


とっくに雨雲は過ぎ去っていた


「このままでは風邪を引きますね」


立ちあがり、水野は風呂の蛇口を捻った
お湯が一気に浴槽に流れ込む
アカギはシャツがべたつくので、脱いで洗濯篭に入れた


「お湯、すぐに溜まると思いますのでもう少し待っていてください」


水野も羽織を脱いで篭にかけた
中の着物はそれほど濡れていない


「一緒に入る?」

「冗談言わんでください」


触れようが触れまいが水野と自分は交わらない平行線だ
確かにそこあると約束はした、それだけで充分だった







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