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「水野さん」


いつの間にか自分の前にアカギが立っていた
屋台の明かりが横から顔を照らしアカギの白さを浮かび上がらせていた
色の薄い印象のわりに男性らしい引き締まった肉体、その反比例がアカギを目立たせる
双方の眼だけが、爛々と光っている


「はい、焼きそばとラムネ」

「ありがとうございます。アカギさんは何を買ったのですか」

「鮎と焼き鳥」

「渋いですね」

「ビールもある」


水野の隣に座り、ビールのプルタブを開けた
焼きそばを水野も頬張る


「この後花火も上がるんですね」

「ああ、そうらしい」

「花火は好きですよ。手持ちのものも買って帰りましょうか」

「いいですよ」


会話がぱったりと止んだ
二人とも元々話す方ではないので、会話が弾む方が珍しいのだ
蒸し暑い体に冷たいラムネが澄み渡る


「…その着物、前も見たことがある」

「よく覚えていますね。これは若いときから着ているのです」

「代打ちに行くときは違う柄だったね」

「藤の柄です。」


藤の着物は水野の戦闘服だった
代打ちに行く時などは必ず着ていた
藤の模様が人間の肋骨の様に見えるから、他の組からは死神なんて揶揄されて恐れられていた

白地であるのは麻雀牌が目立たないよにという工夫からだった


「あんたの流儀は嫌いじゃない」


強くある、己自身で生きる、その事に水野の流儀は徹底していた
アカギが介入する隙が無いほどに。
アカギとて自分の決めることに他者の干渉は許さない
だから己に全ての責任が降りかかるものだと思っているし、無意味な死も受け入れている
しかし、水野とは共に在りたいと思う

他の人間には埋められない、自分の知らないどこかが水野によって埋まる
同類としての水野とそれを度外視した水野のどちらもが共に在ればいいと思う


水野もアカギと同様に「今」を生きている人間なので、前触れもなく消えてしまいそうだ
いつ切れてしまうともわからない関係を手に入れることで強くしたかった


ひゅうと暗闇から音が聞こた
見上げると木々の間で大輪が花開く


「綺麗ですね」

「もっと良く見えるところに行く?」

「いえ、ここで大丈夫です」

「そう」

「…美しいものは好きです」


大きな音が響く度に辺りが照って消えていく
火花によって照らされる水野の顔はいつもと違って見えた


「ねえ、水野さん」

「はい」

「東京に来てよ」

「え」

「側に居て。死ぬまで」


死が二人を別つまで。
それは愛だとか、独占欲とかそんなものよりもずっと強い結び付きを求めてアカギから発せられた
時間的な束縛を越えて、例え己の価値観が変わっても構わない決断
いや、既にアカギは水野によって変えられていた
この思想もアカギ一人では生まれない



アカギの目を、水野が自分から見た
じいと見つめて、真意を探っている
ここで返事をしなければ水野は自分自身を軽蔑するだろう


アカギのことを考えていた、ここに来てからずっと
13歳のアカギに対して培った考えが根付いて離れない
元々の次元が違うから、同じ人として未だに受け入れられていない
好意を寄せるなど考えも付かなかった

ただ、アカギが軽井沢を去ったときの空虚で、自分がアカギと一緒に居たかったのだと気がついた
アカギをどんな風にも見ていないが、側に居たかった、出来ることならずっと。


「いつまでも、貴方と共に在ります」


水野の言葉でアカギが今までになく優しい表情を浮かべた


花火はいつの間にか終わっていた


「帰ろうか」


境内を後にして、止めておいた自転車に乗った
買い物かごには沢山のがらくた
水野が荷台に腰かけ、アカギの肩へ掴まる


二人の自転車はゆっくりと、宵闇へ消えていった








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