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「着いた」


まだ自転車を止めきる前に水野は荷台からするりと降りた
自転車を神社の側に着けて鳥居をくぐる
屋台には明かりが灯り、人がごった返していた


「しまった。万札しか持ってきてない」


ポケットから札束を覗かせてアカギが言った
さらりとこういうことを言うところがアカギらしい


「お小遣いあげますよ」

「ガキじゃないんだから」


靴音を石段で鳴らしながら二人並んで歩く
気を抜くとはぐれてしまいそうだ


「アカギさん、屋台は初めてなんじゃないですか」

「いつかあんたと縁日には行ったよ」

「そうでしたっけ」

「ああ」

「あ、たこ焼き食べましょ」


屋台の電球の色は、アカギ達を異世界へ誘った
屋台から顔を覗かせる親父も、ビール瓶ケースに座り綿飴を売る女も知らぬ世界の住人だ

隣で人の波を泳ぐ水野の現実感も薄くなっていく

思わず水野の手を取った


「…どうしました?」

「いや」


見つけた数少ない同類が、人の世に紛れてしまいそうで引き留めたなどと言うのも女々しく、軽く否定するだけにアカギは留まった


「射的でもしますか」

「いいよ」


金魚すくいなど生き物が景品の店を家に持ち帰っても育てられないので水野は選らばない
そうなると己の技量を試すような遊びばかりになる

コルク弾を受けとるとお互い馴れた手つきで先に押し込めて、構えた
先に引き金を引いたのはアカギだ
アカギの放った弾は、一番大きな景品であるぬいぐるみに当たったが、微動だにしない


「攻めますねえ」


水野はキャラメルの箱を落とした


「狙うなら大穴、小物はいくつ落としても変わりやしない」


次弾もその次もアカギはぬいぐるみを狙い続けた
水野は菓子などの小さいものを着実に落としていく
アカギの最後の弾がぬいぐるみに当たった時、店の親父が足元にある箱を誤って蹴り、隣接していた景品棚が揺れた
何発積んでも、コルクではおおよそ落とせないであろうぬいぐるみが傾いて落ちた


「おや、こりゃあ参った。お客さん運がいいね、その強運を祝してあげるよ」


アカギに頭一個分は優にある白い熊のぬいぐるみが差し出された
それを受け取って水野に手渡すと気がすんだのか、店を後にした

その後も輪投げ、スマートボウルなど様々な遊戯で競いあった
どちらも勘が良く、手先が器用なので景品を沢山貰ったが、食べられるもの以外は持ちきれないので断った


「こんなことなら鞄の一つでも持ってくれば良かったですね」

「一休みしようか」

「ええ」


境内の低い石塀に腰かけた
人の通り道から少しだけ外れた場所は休息を取るには丁度良い



「何か買ってきます?」

「そうですね…じゃ、ラムネと焼きそばをお願いできますか」

「わかった」


ポケットに手を突っ込んだアカギの背が人混みに消えていく
鮮烈な白髪は戻ってくればすぐにわかるだろう

過ぎ行く人を水野はなんともなしに見ていた

自分とアカギには場違いな場所だと今更ながらに思う
アカギは何故自分をここに連れてきたのだろう






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