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「そろそろ寝ます」


立ち上がった水野をアカギが引き留める


「もう少し」


渋々先程の位置に座り直すと、水野はセブンスターを取り出した


「煙草、変えたんだ」

「ええ」


水野はそれなりに煙草を吸う人間である
一日一箱はざらに開けているうえ、酒を飲むと量が増えるので新しい箱を開けることもしばしばあった
器用に片手でマッチを擦り火を着ける


「火、貸して」

「ハイライトですか」

「ああ」

「きついの吸いますね」

「セッターも大して変わらないでしょう」


マッチを擦ろうとする水野を手で制止して、顔を近づける
アカギの意を察して水野も煙草を咥え直し、伏せ目がちに深く煙を吸い込んだ
ふわりとアカギの匂いが煙草に紛れて香る
互いに咥えた煙草の先を着けて火を移す、所謂シガレットキスである
無事に火が移り、二人とも煙を宙へ吐き出した

一心地着くとアカギは水野のグラスへ酒を並々注いで、差し出した
水野も瓶を取り、アカギの方に継ぎ足す


「どうも」


灰皿に吸いかけの煙草を置いて、玉子焼きに箸を伸ばした
どこの料亭で食べる料理よりも水野の手料理がしっくりきた


下げてある風鈴がちりんと音を立てる
まだまだ暑い日が続いていたが、日が落ちてからは大分涼しくなってきた
少し湿気っぽい空気が家に吹き抜ける
辺りは田んぼで蛙が大合唱をしていた

水野は側に置いた団扇を取ってやんわり扇いでいる
和装が常なので季節感のある風景がよく似合っていた
頬が少し赤みがかって、目は緩んでいる
ほろ酔いといったところだろうか、少し眠そうだ


「夕涼みも乙なものですね」

「そうだね」


間にある盆を押しやって、水野との距離をそっと詰めた


「アカギさん…?」


酒が回って大分警戒が薄くなっている
いつもならさっさと理由を付けて寝床に引き上げていくであろう水野はぼんやりアカギを見上げている


「眠そうだな」


頬に手をやって撫でてもちょっと目を細めたくらいでされるがままになっている


「ええ。そろそろ戻りますよ」

「手伝おうか」


引き寄せて、より密着しようと腰に腕を回すとすっと払われた


「結構」


顔を見るとはっきりとした黒目がアカギを見つめている
常の態度に戻ってしまったか


「あらら」

「おやすみなさい」


そういうと、いつものようにゆるりと笑って畳の奥の闇へと消えていった







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