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「夕飯まで悪いな」

「思っちゃいないでしょう、そんなこと」

「ばれたか」


居間で揚げ鶏の甘酢あんかけをつつきながら、他愛もない話をする
アカギの食べ方は昔から静かで綺麗だ


「そういえば、もう公的にお酒が飲める歳ですか」

「ええ」

「成人祝いに私のとっておきでも出しますよ」

「やっと縁側の晩酌に付き合えるな」

「そうですね」


たまに水野のものをくすねるくらいで昔のアカギは飲酒、喫煙をほとんどしなかった
こういったところが、素行に反してどこか品を感じさせる
ただ、頂きますとご馳走さまは水野の習慣が移るまで言わなかった
アカギにはそういった継ぎ接ぎの歪さがあった

水野は再開した時からアカギが見つけてきたらしい何かが気になっていた


「ここに来るまでの七年間で、何かいいことありましたか」

「どうして?」

「昔よりも少し満足していそうな顔をしているからです」

「そうだな…割と最近のことなんだけど、生きてることを初めて実感した」

「なるほど」


それで。

世界に飽いていながら、何かを求めていた悪鬼は、世界をものにする悪魔になったのか
あの子供が多少なりとも満たされたことに水野は嬉しさを感じていた
無意識にゆるりと微笑んだ顔をアカギは見逃さなかった


「髪、あの後どうしたの」

「ああ、切り揃えて少しずつ伸ばしましたよ」


水野のことだから、髪なぞ切られても大して気にしなかったに違いない
ただ、世間体が悪いと不便だから見た目や振る舞いを繕う、そういう人間だ、水野は


「もうすっかり元通りだな」

「ええ」


久しぶりに食べる水野の手料理は、アカギに潤いを与えた
食も根元的に生に繋がっているから満たされる水野の料理は知らずアカギに力を与えていたのかもしれない


「お風呂先にどうぞ」


台所へ片付けるため、盆に食器を乗せながら水野が声をかける
アカギは窓際に座って煙草をを吹かしていた


「お先に。何か寝巻を借りられない?」

「あとで脱衣所に置いておきますよ」

「わかった」






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