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東京から電車で二時間
駅から徒歩40分
人気の無い塗装された道路を月明かりを頼りに歩き続け、たどり着いのは一般的な民家だった
向こうを出たのが夕方で、空には星が広がっている
回りに電灯が無い分、月が一層明るく周囲を照らした
これだけ駅から離れており、周囲の家とも距離のある場所を選ぶのが、人嫌いの水野らしいと思う

建物の前で眺めていると、玄関の引き戸がからからと音をたてて開き、着物の女性が中から出てきた
月を見るために出てきた様で、空を見上げたまま建物に阻まれない位置まで下がる
暫くそうして居たが、やがて気がするだのか、玄関へ向かった
しかし、何かを感じたのか、立ち止まり周囲を見渡す
そうしてアカギの姿をみとめた


嗚呼、やっと会えた


切られた黒髪は月日で元に戻り、昔と同じくらいの長さで後ろに結っている

アカギの記憶と変わらない水野の姿があった

アカギと視線が合うと目を見開いたが、嫌みたらしい笑みに戻ってこう言った


「ご無沙汰しております」


歩み寄ると水野の頭が下になり、アカギが見下ろす形になった


「あんた、こんなに小さかったっけ」

「あーたが大きくなったのですよ」


近くまで来ると本当に七年前と変わらない肌のきめ細かさと容姿で、そっくりそのまま過去からやってきたようだ
やはり狐に違いない


「どうぞ上がっていってください」


誘われて入る家は木造で、どこか懐かしさがある
廊下は薄暗くぎしぎしと踏みしめる度に音を鳴らした
客間にアカギを案内し、自分は客人に茶を出すべく台所へ向かおうとしたところで、水野は不意に後ろから抱き締められた


「ずっとこうしたかったんだ」


肩に顔を埋めながらアカギが呟く
アカギの方が体躯が大きくなり、水野の体はすっぽりと収まってしまう
腕も前よりも太く、手のひらも大きくなっていた
ふわりと男性特有の、しかしさっぱりした匂いがして、大人になったのだなあと水野を実感させた
そうしてあの白子はもういないのだと、そう思うと寂しかった
硬い髪の毛を撫でると、アカギはふうと溜め息を漏らした


「俺が居なくなってからどうしてた」

「暫くは軽井沢に居ましたよ。ただ、あっこも追っ手に見つかりましてね。それからは何処かに居付くのも嫌になって、各地を転々としています」

「……じゃ、俺の家に来ない?」


耳元で吐息混じりにアカギが誘うので、流石の水野にもぞくぞくと痺れが背筋を伝った


「いつからそんなにませたんです」

「もう二十だぜ?」

「そんなに経ちましたか」

「そうさ。もうガキじゃない」

「私にとってはそうでもないですよ」

「試してみる?」


アカギが水野の首に指を這わせるので、腕をそっと抜け出し客人に茶を出すべく台所へ向かう


「あらら」


元々相手を追い詰めるのが得意だったが、年を重ねてそれに拍車がかかっている
アカギは七年の間に何かを見つけてきたようで、以前にも増して押しが強い

自分はあの時のまま時間が止まっているというのに。

水野がお茶を机に置いてかけるとアカギも習って向かい側に落ち着き、湯飲みに口をつけた


「アカギさんもてっきり根無草だと思っていましたよ」

「言葉の綾ですよ。俺も不定期に場所は変えてる。ただ、あんたと住みたいと思った」

「今のお住まいはどこです」

「東京。ある程度人がいないと賭場が立たないから」

「そうですか。ここまでは遠かったでしょう。」

「ああ、もう帰りの電車が無い」

「…もし宜しければ泊まっていってください」

「そうさせてもらいますよ」


口許を緩めるアカギ

全てアカギは計算尽くなのだと知りながら、その軌道に水野は乗るしかなかった






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