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こんな風にしたい訳じゃなかった

市川に並べる、水野と対等になれる…そう思ったのに




アカギが快楽を得たのは最後の決定打、酒の札を放ったところまでだった

目の前にはぼさぼさに髪を削がれた無惨な水野の姿がある
鋤いた髪が辺りにぱらぱらと散乱していた
アカギがその辺のハサミで手を入れた
毛先はバラバラで、髪型というにはあまりに酷い
全体的な長さはアカギよりほんの少し長いくらいになった
威厳や狂気は髪に宿っていたのか、牙を削がれた獣のようにただの惨めな女に水野は成り下がってしまった
水野の瞳はなおを光を灯してアカギを見つめている

水野と勝負がしたかった、市川に負けないくらい熱い勝負を。
この化物となら出来ると思った、同類だと信じていた
勝負は一進一退のせめぎ合いで、己を省みないまさに今この時だけの勝負が出来たように思う
ただ、最後の札を場に出した時にアカギはわかってしまったのだ
髪を切ることは、水野を変質させてしまうのではないかと

実際、水野は髪を長くし、着物という戦闘服を来て外面を整えることで自分を演出していた


自分が水野に対してどう思っているのか、明確に落とし込むことは13のアカギがいくら一人で考えてもできなかった
それを伝える手段も、昇華する術も持たなかった
水野はアカギが本気でぶつかろうとするとするするとすり抜けていってしまう
狡い大人だ

やり場のない気持ちが遂に暴発してしまった

我に帰った時には勝敗は分かたれ、水野が取り返しのつかないことになることが決定していた
互いの誇りにかけて、今更手の平返しはできなかった
水野はアカギに背を向けると

「どうぞ」

となんの抑揚も無く言っただけだった


激情の残り火がアカギを突き動かした
水野の長い髪を容赦なく切り刻み、跡形も無くした
賭博をすることで自分の気持ちを水野に受け止めて欲しかった、理解して欲しかった
水野が同じ気持ちであってくれればいいとさえ思った
なぜ、なぜわかってくれないのか…!


今やその全てが破れ去った


アカギは暫くその場で呆然としていたが、居ても立っても居られず裸足のまま家を飛び出していった

空になった部屋で水野はぽつりと一人ごちる



「…アカギさん」



その後、アカギがこの家に戻ることは、二度と無かった







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