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例の如く昼飯の肉じゃがを水野が厨房からカウンターに出した時のこと、アカギから欠伸が1つ
「あら、寝不足ですか」
アカギは夜に家を開けることが多かった
目立つ行動は避けるべきだと理解していたが、有り余る若い力がそうさせなかった
この頃の生活サイクルは、決まった時間に出る食事に合わせて、起床し、昼夜は外出していることが殆どだ。食事は食べる時だけ声をかけるようにしている
「一階の方が夜まで煩くて眠れなくてね」
「それは気が回りませんで。今度から時間にはしゃんと店仕舞にします」
寝不足の理由はもう1つ、水野が23時まで店を閉めないこと
客が去らなければ何時までも店を開けている
しかも、訪れる客の殆どが店を貸し切っての団体客で夜遅くまでどんちゃん騒ぎが常だった
それらの客は堅気では無く、酔いに任せて物騒な話も聞こえてくるのである
下手に下に降りる訳にもいかない
水野は堅気ではないのだろうか、風体からして誰かのイロか。
それならば薬指が無いこともなんとなく想像がつく
「お客さんに聞いたのですけど、この頃、雀荘にとても腕の立つ白髪の子供が現れるそうです。貴方でしょう?」
お玉を握る水野の目元がにゅと細められ、アカギを真っ直ぐに見つめる
本当にアカギを写しているのか、主張するその瞳の奥の闇を快く感じる
「これは、愈々外に出られなくなってきたな。店の客はやはり、筋者か。代打ちなんかも来るんですか? 打ってみたいですね。」
「うちでやったら目立ちますよ」
「なんならあんたが相手をしてくれてもいい」
「私はちっとも打てませんよ」
ただの女がここまでの妖気を身に纏うものか。
麻雀は打てないにしろ、根元に何かが必ずある
水野からしてみてもアカギは焦臭い
ただの不良では明らかにない顔付き
白髪の中学生が代打ちの間でトップクラスの市川を破ったことは水野の耳にも入っていた、…恐らくこのアカギが。
まさか気紛れに拾った子供がここまで深い闇を行き来しているとは
お互い日常の所作は淀みない
日常的な腹の探り合いは今に始まったことでは無かった。