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アカギが水野の家で看病に預かること三日
ほとんどが返り血で出血はないものの、打撃による体の軋みが後を引いて、まともに歩けるようになるのに時間がかかってしまった
壁にかけてある制服に袖を通し、件の和室から廊下へ出て階段を降りる
下には何度か食事をするために降りたことがあった
あの水野という女性は一人で小料理屋を営んでいて、一階には土間に厨房と対面のカウンター、畳に数えられるほどのテーブル席、隅に麻雀卓、囲碁盤などが酒の肴にと据えられている
そのカウンターで食事をするのだ
水野の職業柄、料理は滅法旨い
今も夕方からの営業のため、水野は仕込みをしていた
「おはようございます」
相変わらず食えない人間、仕込みをしているか、家事をしているところしか見たことがない
夜は店を開けるため、一階には来ないようにと言われている
食事も無論アカギ一人で取っていた
カウンターへ腰をかけると遅めの朝食が出てくる
箸へ手をつけて暫く、アカギが口を開く
「今日此処を出ていこうと思いますよ。世話になりました」
「あーた、まだ本調子じゃあないでしょう。いいんですよ、気兼ね無く居てくださって」
「アンタが何を考えているか知らないが人に借りは作らない質でね。そのうち金の方で礼はさせてもらう」
「でしたら、一泊300円でどうでしょう。三食、風呂付き。私は大概この家に居ますから、食事は好きな時間に出しましょう。見ての通り、貴方に個人的介入をする気は更々ありません。拾ったのなら最後まで面倒見ます」
確かに市川との激戦を終えた後、アカギは住むに困っていた
川田組に追われるばかりか、任侠者が挙ってうちの代打ちにと血眼になって探していたのだ
いくら無欠のアカギとは言え、13歳の子供では、金があっても宿を取るのも難しく、神社の境内や橋の下を寝蔵にしていた
やくざを相手に逃げ回り、寒さを凌ぐには厳しい季節になって来ていた。
「それなら後腐れ無くていい。」
何よりこの女の闇を暴いてみたくなった。