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朝起きるとアカギの姿が無い

そのうち戻ってくるだろうと水野は当たりを付けて、身支度を整え、朝食を作るべく台所に立った
昨日の一件を朧気な記憶で思い出す

まさかアカギがあのような態度を取るとは。

賭博にしか興味がないと思っていたので意外だった
それなりの好意は寄せられていることが、行動で明確化してしまった
ただ、それを世間一般のそれといっしょくたに決めつけるのはまだ早い
あれは悪鬼である
第一そうだとしてもアカギはまだ13歳なのだ
その思いが続くとは限らない
自分がアカギと何年も一緒にいるところが想像できない
アカギもそれは受け入れないだろう
一時なんとなく側にいるだけの関係なのだ
花札勝負で私の腕を見極めたら、興味を失って去っていくだろう
自分はアカギの人生の過ぎ去るほんの一握り
あの人の豊かな人生の中で、忘れてくれれば、それでいいと思う

水野にとってアカギは過去の自分か、或いは神格化した何かだった

過ぎ去ること以外は考えられない心地の良い風

次元が違うものだから、自分との関係がどうのだとか、そんなことは考えなかったのである


包丁でトマトを切りながら、今後のことを水野は考える
今日は買い物がてら軽井沢をアカギに案内してもいいかもしれない
菜の花や桜が綺麗に咲いている場所を選んで歩こう
花に興味はあるんだろうか

調理に集中していると後ろから温かいものが凭れかかってきた
肩越しに手元を見ている


「おはようございます」

「おはよう。何作ってるんです」

「サンドイッチです」

「旨そうだな」


適当に会話をすると水野の元を離れて、寝床へ向かっていった
なんとも気紛れな人間である
今度は台所から水野が話しかけた


「どこへ行っていたのです」

「散歩にね」

「この辺りは日差しも柔らかくていいでしょう」

「ああ」


特に昨日のことが二人の表面的な何か変えた訳でもなかった
それでも思いは確かに移ろっている







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