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アカギは水野が寝床へ行っても暫く残っていた
少し考え事をしていたかった

市川のことが上がると胃がむかむかするのは、水野を取られた気がするからだ
少なくとも水野の気持ちは市川が出てくるとそちらに向かっている
水野の新しい一面があの盲によって引き出されていると思うと、体が煮え立つようだ
なんとも癪に障るというか、
なまじ共通の知り合いが出来てしまったために相手に嫉妬しやすいというか。

…嫉妬

市川に嫉妬しているのか、自分は。
逆に市川に嫉妬するほど水野に独占欲を抱いていたことが判明する
友人というものが出来たことが無いからわからないが、友人にも独占欲は抱くのだろうか
友人といて時折胸が締め付けられるのは、間違っていないのだろうか

そもそも自分達の関係を友人と言ったは水野なので、あの狐と自分を照らし合わせてみる
水野が自分ほど相手に対して心が動いているようには見えなかった
あの人の定義する友人と自分の抱いているものはきっと違う



ならば何か。



立ち上がって隣の部屋へ続く襖を開けた
居間から漏れる明かりが丁度枕元を照らし、
水野の寝入っている顔が見えた
中へ入りそっと襖を閉じる

幾分もしないうちに夜目が利くようになってくる
横になっている水野の近くへしゃがみこみ、朧気な輪郭を覗いてみる
外の月明かりが次第に室内を明るくした
アカギの白髪が光を反射してきらきらと光る
水野を構成する一つ一つがはっきりしてきた
起こさないように右の目の窪みに触れた
これが取り出せたら嬉しいだろうなと思う


水野の目玉と指がアカギは好きだった
麻雀で一等輝きを放つ部分だから

顔に手を滑らせるうちに唇に手が当たった
親指と人差し指で摘まむと弾力がある
アカギは場末の賭博で男女が唇を合わせているのを見たことがあった

恋仲になると、どうしてそんなことをするのだろう

何かが変わるのだろうか
アカギの中で興味が沸き上がってきた
今までは他人としか接したことがないので考えもしなかったが、
水野が他とは違う存在になった今、親しい仲同士ですることは色々と試してみたかった
笑い合うこと、手を繋いでみること、肩を触れ合わせること、背負うこと、…キスすること。


水野はまだまだ起きそうにない
そっと顔を寄せてみる
睫毛がすぐ近くにある
吐息が顎に当たってこそばゆい

浮き上がるそれにそっと口づけた
そうしてゆっくりと離れる

心の靄がすっと晴れた気がした
鳩尾が軽くなって、体に触れる空気の塊が全て新鮮なものに思われた
嬉しくなって寝ている水野に覆い被さるように抱きついた

勢いが着きすぎたのか、水野が目を覚ました


「…寝込みを襲うとは、やりますね」


眠そうな瞳で布団から両手を出して、アカギの腰や脇を擽った
くすぐったくて、身を捩って抵抗をした
自分の体を駆け回る手首をなんとか捕まえて水野を見つめる
動きが止まると途端に辺りは静寂に包まれる


「どこから起きてた」

「あーたが飛び付いて来たところですよ」

「嘘」

「本当で…」


動いている口がすぼまるところを狙ってまた唇を重ねた
水野は抵抗らしい抵抗もせずにアカギをじっと見ている
目が少し見開いているので、驚いてはいるらしい
得意気に口を離す
体がふわふわして、水野の布団に潜り込んだ


「柔らかい」

「あーたの唇も柔らかいですよ」

「ね、もう一回」

「駄目です」

「どうして」

「どうしても」


アカギは相変わらずの調子で淡々と問い詰めてくるので、水野はどうするか考えあぐねていた
最終手段にアカギの背中に手を回して、これ以上身動きの取れないように押さえ込む
実力行使である


「あらら、押さえ込まれちゃ仕方がないな」


振り解こうとすれば出来たが、この状況ですったもんだするのも何である

アカギは楽しんでいる素振りである
水野の横に落ち着くとそのまま目を閉じた
このまま寝る気でいるのだ

水野が頭にそっと触れてくる
前まではそうやって撫でられることが新鮮であったのに、アカギは急に子供扱いをされているように思えてもの足りない
自分は水野と対等でいるつもりなのだが、相手はそうではないらしい
もどかしいと思う。


一頻り撫でると、追い出すのも面倒で水野もそのまま眠ってしまった






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