5-3
「水野さん、着替えってある?」
アカギが風呂から上がってタオル一枚で出てきた
「急いで家を出てきて寝巻持ってきてないんだよね。別に着て来た服でもいいんだけどさ」
「ああ、持ってきましたよ」
寝床の鞄から着流しを取り出してアカギに渡す
元々来ていたあの大きい着流しだ
「いつの間に」
「解れていたので丁度直していたんですよ。アカギさん、水滴をぽたぽた垂らさないでください」
アカギを洗面所に押し込んで、畳んであるタオルを手に取り、頭に乗せる
そのまま髪を擦り、軽く水気を取る
アカギの髪は混じり気の無い白髪だが艶があり、さらさらしている
「悪くないな、人にやってもらうのも」
途中でタオルを手渡して水野は出ていった
洗面所の洗濯機には後で洗われる予定の着物が入っている
普通なら着物を洗濯機で洗うなど言語道断だが、粗方の血を落として捨てるだけならば構わないだろう
出てきたアカギと入れ替わって水野が今度は風呂に入っていった
寝床へ入ったアカギの足がふと止まる
そこには二人分の布団が川の字で離して敷いてあった
水野と同じ部屋で寝るのか
それを実感すると足の裏がむず痒くなった
先ほど服を脱がせた手前、何を今更とも思うがそれとこれとは別だった
自分から干渉するのは構わないが、水野が常に近いのは慣れない
暫くは部屋の少ないこの家で過ごすのだから、前よりもずっと近いだろう
台所からお茶を入れて居間で飲む
まだ水野は出てきそうに無いので窓から外を見ていたりした
本当に真っ暗だ
虫が窓ガラスに張り付いている
蛙の鳴き声が家の中にまで聞こえた
アカギのいた東京とは大違いだ