5-2




軽井沢の別荘につく頃には日が疾うに落ちていた
その家はひっそりと林に隠れるように建っていた
庭付きの平屋である
回りの家ともいくらか距離があり、干渉はなさそうだ

タクシーを降りると、家の前で人が待っていた


「おかえりなさいませ」

「ご無沙汰してます」

「こちらが鍵になります。電気もガスももう使えるようにしてあります」

「ありがとうございます」


掃除婦を雇って家を清潔に保っているのか
水野が道中の途中で車を降りてわざわざ公衆電話をかけていた理由がわかった

女は用件だけ伝えると去っていった


引き戸を開けると
直ぐに廊下が続いている


「こちらです」


水野について行く
廊下の左側二番目の部屋に入って、荷物を置いた

掃除婦が空気を入れかえるためにそうしたのか、全ての窓が開いていた


「窓を閉めてきてもらってもいいですか」

「ああ」


戸締がてら家の間取りを調べる
玄関から向かって、廊下の左手前、襖を隔てた先にテレビのある居間、左奥の先ほど荷物を置いた場所はは居間と隣接した床間のある寝床
右手前が台所、奥が風呂
廊下の突き当たりは便所という至って簡素な作りだ
居間と寝床からは外に出られるようになっている


戻ってきたアカギは水野の前に立った
少しいつもより距離が近い


「アカギさん?」

「脱いで」

「え」

「服。あんたが本当に怪我してないとも限らない」

「いや、大丈夫で」

「脱いで」


アカギの目は本気だ
水野を急かすようにじいと見ている
そこに浮わついた気持ちは一切無い

したかなくスカートを足のつけ根ぎりぎりの下着が見えないところまでたくしあげる
こうなってしまっては言うことを聞くしかない
アカギ相手に真っ向勝負など最初から不可能なのだ


「ここは着物を脱ぐ時に見つけたんだよな」


しゃがんでそっと右足の弁慶の泣きどころのすり傷に触れた


「痛む?」

「いいえ」

「救急箱ってどこ?」

「玄関です」


アカギが玄関に箱を取りに行って戻ってきた


「座って」


大人しく畳に座り込む
アカギが消毒液を傷に吹き掛けると、少しだけ水野は顔を歪めた
ガーゼを押し当てて、テープで止めた


「上も」


Yシャツを大人しく脱ぎ、さらし一枚になった
左肩に切傷がある
出血をそのままにして血液が凝固している


「やっぱり怪我してるじゃない」

「大したことはありません」

「俺みたいに熱出されると困る」


湿らせた手拭いで汚れを拭き取って同じように手当てをした
アカギの温かく大きい手が肌に触れると水野は妙に居心地が悪かった
普段関わる分には平気だが時々男らしい部分を見つけるといたたまれなくなる
第一中学生の男子といえば多感な時期で、あまり肌を見せるのは良くないのでは、とも、思う
アカギにそれが当てはまらないことは十分に知っているのだが。
そもそもアカギを中学生と認識したらつれ回していること自体犯罪なのでは


「いいよ。もう」


Yシャツを羽織ってさてこれからどうするかと水野が考えた時、最初に浮かんだのは夕飯のことだった


「いけない、夕飯を途中で買ってくるんでした」

「この辺りは明かりが少なそうだな」

「そうなのです。日が落ちてしまうと足元が見え辛くて。それにお店までかなり距離があるのです」

「どうしようか」

「まだ避暑に来るほどの季節ではありませんからね、人も少ないでしょうしね…ふむ」

「出前は?」

「先ほどの事件の手前、あまり人を呼びたくないんですよね」


水野が寝床を離れて台所へ向かう
無いとはわかっていたが、念のために冷蔵庫を開けると中に食べ物がぎっしり詰まっていた
嬉しい誤算だ


「やっぱりあの人は気が効きますねえ」


掃除婦の働きには感嘆するしかなかった






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