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いつもの時間に水野の意識が覚醒する

朝日が差し込むようなっているから、自然に目が覚めるのだ
布団を畳み、かかっている着物に目を通し、身支度を済ませて水を一杯
窓を開けるとよく晴れていた
今日は布団を干すのに良いかもしれない

外に出て施錠を済ませ、下の店を開ける

台所で水野は本日の朝食を気の向くままに作り始めた
卵が危なそうので、使ってしまおう
たまには洋食でもいいかもしれない
フライパンにベーコンと卵を落としスクランブルエックを作る
ただパンをトーストするだけでは芸が無いので、砂糖、卵、牛乳などをボウルに混ぜてパンを浸けこみ、フライパンで焼く
所謂フレンチトーストというやつである
アカギは甘いものを沢山は食べられないので、普通のトーストも用意する

そろそろ匂いにつられてアカギが降りてくる筈なのだが、まだ来ない
野菜や、ハム、チーズも用意して配膳を終えても一向に来る気配がないので、二階に上がった
廊下から声をかける


「アカギさん」


返事はない
もう一度、呼び掛けるがうんともすんとも言わないので障子をそっと開けた

目を閉じて、静かにアカギは眠っていた
首元がはだけていつもより晒されている
みずみずしい白い肌だ
こうしてみると寝顔は年相応に見える


「起きてください。アカギさん」


軽く叩いてみるが反応がない
余程眠りが深いらしい
確か昨日は徹マン明けだったか。
今は休ませておいた方がいいのだろうか。
そう思い、水野が立ち上がろうとすると何かが引っ掛かった
確かめるために振り返ると横になったまま、にやにや笑うアカギがいた


「なんだ、起こしてくれないの」

「狸寝入りですか、意地が悪い」

「ククッ」


袖を掴んでいたアカギの腕を取り、残った反対の腕も捕まえて起こそうと引く
起き上がったアカギはまた水野に注文をする


「ね、水野さんってオレのこと背負えるんでしょ。背負ってよ」


まるで自分に子供が出来たようだ
聞かないとテコでも部屋から出ないのはわかっているので仕方なしに背負って下に降りる

こうやってアカギは希に我儘を言うときがある
水野を困らせるために言っているのではなく、自分で何か模作しているらしかった
考え込む素振りもあるので、お座なりに断ることも出来ない

机の横で下ろすと、そのまま席に付いた


「珍しいね、洋食」

「一応は作れるのですよ。私の好みでいつも和食なだけで」

「ふうん」

野菜や、スクランブルエッグから手を付けて、フレンチトーストも口に運ぶ


「…やわっこい」

「お嫌いですか」

「いや」


ぱくぱくと一通り二人でたいらげてしまった
自分の方がフレンチトーストを多く食べるだろうの思っていた水野は意外だった


「今度オムライスも作ってよ、実は食ったことないんだ」

「アカギさん…何を食べて生きてきたんですか」

「勝負前に出される懐石料理とか」


流石に水野もそのあと何も言うことができなかった






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