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23時過ぎ、店に帰ってくると門松としめ縄が店先に飾られていた
水野のことだから、まだきっと起きている。
少しだけ期待をして引き戸を開けると中から店の明かりがぽうと漏れる
いつもよりもずっと柔らかく感じる店内で遅かったですねえ、と水野が炬燵から声をかけてくる


「ただいま」

「おかえりなさい」


部屋は外よりずっと暖かい


「年越し蕎麦、ありますけど食べます?」

「食べる」


そう返事をしてから二階へ上がる
火鉢でアカギの部屋も暖めてあった
心の奥が浮わつく様な、落ち着く様な変な感覚
この感覚は、水野の家に出入りするようになって感じるようになったものだ
着替えて下に戻ると、水野が炬燵に蕎麦を二人分用意している
割箸に近所の蕎麦屋の名があった


「水野さん蕎麦は打てないの」

「打てたらわざわざ出前取りませんよ」


ずるずると二人して蕎麦を啜っていると、ラジオから流れる甲高い女性の声がいよいよと言ったように大きくなった
壁の針があと少しで三本真上を向く、もうすぐ年が明ける


「数ヵ月前まではまさか同居人が出来るとは思いませんでしたよ」

「ああ、そうだな」


どうと、けたたましくラジオの音が響いた
年が、明けたのだ


「明けましておめでとうございます」

「明けましておめでとう」

「今年も宜しくお願いします」


水野はそういって目を細めて笑った
それは今年もここに居ていいという…。
胸の内がまたさっき自分の部屋に入った時のようになる



…嗚呼、あったけえな







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