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幽遠寺の車が店へ到着するまで、アカギはずっと黙っていた

既に空は明け方で、日が登り始めている

何か言ってくるだろうと思っていた水野は拍子抜けしていた
もしかすると、私の腕前に落胆したのだろうか
この前の旅でアカギの人間離れした力は見ている
次元が違いすぎて普通に戦ったのでは勝てないと思った
アカギに自分のサマを全て見抜く能力があるのなら、全く歯が立たないだろう
その確信がアカギにあるのかもしれない

車から降りると幽遠寺が中から窓を開け水野に声をかける


「今日はありがとう。今度は店の方に来るぜ。」

「お待ちしています」

「坊主も、じゃあな」


そういって去っていった
戸を開けていると、突然アカギが水野の手首を掴んだ
そのまま引っ張られ中へ入る
捕まれた手が痛い
13才とはいえ、男性にこうも力を入れられては離せない
息も付かせずに土間から店の畳へ水野を押し倒した


「アカギさん?」

「あれだけ煽っておいて、何かまととぶってるのさ」

「あれは勝負の方便で…っ」


顎に手をかけられ、上を向かされて強制的に目を合わせる
アカギの燃える瞳と水野の目が真正面で重なる


「あんたの狂気、少しわかった気がするよ」


ククッと笑ってみせる
子供の純粋さを携えて、水野の最深部を覗こうとしているのだ、アカギは
水野から向けられているのは、警戒と敵意
現に今も刃物にそっと手を添えている
少しでも妙なことをすれば斬り捨てられるだろう

敵意に気がついた時、水野との何気ない日々が一瞬頭の片隅に浮かんだ
水に絵具を垂らした様にその記憶はじわじわ波紋となって広がりアカギを萎えさせた
このまま無理矢理手に入れようとしたが、違うらしい

なら、どうしたらいい。

アカギにはその術が思い付かなかった
13歳の危うさと拙さがアカギを苦しめる
賭博に明け暮れて他人のことなどついぞ気にしたことがなかったので、人と接する術をアカギは知らなかった
人間は経験を積んで、感情を体験することによって自分の思いを理解し、更に感情を細分化していく
アカギにはそれが欠けていた
自分が水野に何を思っているのかも、これからどうしたらいいかもアカギにはわからなかった

アカギがそのまま長いこと静止していると、水野がそっとアカギの頬に右手を添えて言うのだ


「どうしたのですか、アカギさん」


問うているその瞳は真剣そのもの
アカギの激しい感情の揺れを水野は読み取っていた
そのうえで触れて落ち着かせようとしている
この状況で親しい人間としてアカギに接しているのだ
水野は自分のことを友人と言っていた
友人という概念を吟味する
親しい他人のことを言うのだろうか
その言葉で相手とどこまで近づけるのだろう
少なくとも友人という関係性に置いても水野は側にある、今までのように


ならば、取り敢えずのところそれでいいか。


自分の思いが理解できない以上前には進めまい
ならば与えられた友人というものに甘んじてみよう
そのうえでまた考えるしか自分に方法はない




アカギもまた友人として水野を力任せに掻き抱いた




…「春の友人」へ、続く






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