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アカギは控え室から勝負の行われる隣の部屋へ忍び込んでいた
襖を僅かに開けると丁度水野が入ってくる所だ

水野が一歩足を踏み入れた瞬間に、部屋の気温がぐっと下がる
冷気を放っているのは誰か言うまでもあるまい
既に圧に押し潰され怖じ気づいているものもいる
ゆるりと卓に着く
水野の手元がここからでは見えない

真正面に来てしまった

しかし、反対側の部屋に移動するのは難しい
控え室と今いる部屋は隣接しているから来られたものの、下手に移動すれば他の人間に見つかる可能性もある
仕方がないので捨て牌を見ることにした
立ち上がれば、人の隙間から全員の捨て牌をなんとか確認することができる

辺りを確認していたアカギの耳に不意に水野の牌を切る音が響く
なんてことの無い唯の打牌、それなのに部屋の空気が揺らいだ
その余波はアカギにも痛いほど伝わってきた


女の身で他の代打ちと対等に勝負できる理由はこれか。


水野が纏う鋭利な殺気
並の男性の代打ちよりもよっぽと気迫があり、相手を圧倒する
腕前も人並み以上


しかし、この程度ならば代打ちとしてはまだ浅い


水野の持っているという得意技を見るまで真価はわからない
勝負が後半へ向かうにつれて、水野が好調になってきた
それまで見守っていたアカギは何か違和感を覚える
アカギの博徒としての嗅覚が何かを感じ取っている
目を凝らし、よく観察する


手元、袖口…息をするように、水野はイカサマをしていた


この大勢を相手に、誰も気が付いていないのか。
周囲を確認するが誰一人そういった様子が無い
後半の比較的緩んでいる局面で実行するとしても通常ならばありえない
水野は人の意識の先を感じることに長けていた
そうしてこの場にいる十数人の人間の視線の僅か、針に糸を通すような隙を縫い、
或いは自らの行動で相手の視線を誘導してサマを使っていた


俺のいる場所は水野の射程範囲外…?


引きで見ていることもあってアカギには水野の手練手管がはっきりと見えた
一歩間違えば、丸見えの派手なサマ
その鮮やかな技たるや、あのアカギですら思わず溜息が漏れた
指先は流れ、美しい曲線を描く
手元ばかりに目をやってしまっていたことに気が付いて視線を戻すと、水野と目が合った
…偶然ではない
不敵な笑みを浮かべサマを見せつけている
気が付いていたのだ、アカギがいることに、ずっと
アカギの背をぞくぞくと強い痺れが襲う


この女は想定していたよりもずっと化け物だ


いよいよ高まる鼓動が抑えられなくなってきた
麻雀で相対してみたい思いが強くなる
それと同時に傍でこの技を見てみたい、手に入れたいと思った
美しいものを手元において置きたいという強い欲求
アカギが初めて経験したものだ


この化け物が欲しい


水野は目で訴えかけている、ここには来られまいと
アカギが部屋に入れないことをいいことに誘いかけてくる




オーラスが終わるまでアカギは水野から目を離すことが出来なかった
対局は水野の逆転勝利だった






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