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大浴場から部屋に戻ると、アカギが居なくなっていた
戸口が開いていて、不用心だとも思ったが取られて困るものはなにもなかった
縁側へ続く窓から風が入ってくる
ここから庭へ出たらしい
相変わらず外では雪がしんしんと降っていた
上着を片手に部屋を出た
刺すような冷たさが素足に触れる
乾ききっていない地肌が一気に冷えてぷるりと身震いがした
裸足に雪駄では足元が心もとないが、残った足跡を便りにそのままで歩いていく
アカギは松に隠れて空を仰いでいた
元々全体的に色素が薄く、寝巻きも白地なので雪に溶け込んで消えてしまいそうだ
鼻だけが寒さで赤くなっていた
「初めて触ったよ、雪」
「草津の雪はさらさらしていますが、都会の雪はもっとべたべたしています」
「そうなんだ」
上から降る淡雪をその右手に受けて、積もっていく白をじっと見たり、天上の闇のどこからともなく降りてくる粒を眺めたりしている
新鮮で心惹かれているような、それでいてどこか諦めたような、そんな顔だった
…らしくない顔を
「えいっ」
「わ」
水野は雪玉を作ると突然アカギ目掛けて投げた
虚を突かれたアカギの顔ににもろに雪玉が当たる
「何するの」
「雪まみれですね」
そら、と水野がもうひとつ投げてくるので、アカギに火がついた
飛んでくる雪を回避し、しゃがんで辺りの雪をかき集める
水野の姿が消えていた
息を潜めて音を探る
きっと水野も暗闇に紛れて雪玉を作っている
結局また二人で無茶をして、手足が霜焼けになるまで雪を丸め続けた
これが子供の雪遊びだとアカギが知るのはもう少し先