4




「結局サマ、見せてくれなかったね」


夕方、粗方の熱が引いて水野も胃にものを入れられるようになってきた
夕飯を食べながら嫌みたらしくアカギが言うのだ
あの後、寝返りひとつせずに熟睡してしまって、アカギのことはほったらかしだった


「賭け事はしない、と言いましたね。申し訳ないですから花札だったらやりますよ」


堰を切ったようにぷつりと不穏な空気が辺りに漂い、アカギの目が賭博の時に似て燃え始める
鋭い狩るものの瞳


「…言ったね」

「言いました」

「で、何を賭ける。腕?」


アカギの側にいると物騒でしょうがない
焼き魚の骨を除けながら、水野は軽くいなしてみせる


「血生臭いのはよしましょうよ、第一腕ですと、貴方にお出しする料理が作れなくなります」

「じゃあ、あんたのその長い髪は」

「髪ですか?」

「そう。勝負に負けたら俺が切る」

「私の髪の量に合わせると、貴方が負けたら丸坊主ですね」

「そうなりますね」


髪は一般的に女性にとっての命だ
切り刻まれたら表に出られない
アカギのことだから、揃えずにそのままで過ごせと平気で言うだろう
しかし、また生えてくるだけ他のものよりずっとましだった


「いいでしょ。ただし後日です」

「…なんだよ」

「昨日の今日でしょう。それに万全の体調でやった方が貴方も楽しめる」


水野は病み上りであり、正直へとへとだった
アカギの熱視線にこの体調で自分が耐えきれるとは思えない


「あんたとは、まだ何も勝負していない」


箸を置いて、アカギがまっすぐに水野を見つめる
これでやっと水野の本質に触れられる
抱き続けていた疑問を晴らせる時が来た
アカギにとって水野の髪だとかそんなものはどうでも良かった
見据えているのは中心の唯一点だった


結局、花札は家に戻ってから、水野次第で日取りが決定されることになった






[24/147]



戻る


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -