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受付で鍵を受け取って部屋に戻る
沢山歩いて二人ともへとへとだ
手には今夜のつまみになるものが入っている包みがある


「大浴場行ってきます?」

「いや、あれだけ沢山入ったんだ、もういい。」

「そうですね。体も洗いましたしね。」


備え付けの浴衣に脱衣所で着替えて出てくるとアカギも着替えているところだった
気に留めずに水野がアカギに向かって話しかける


「夕食、頼んでもいいですか?」

「ええ」


普段寝巻きにしていることもあって慣れた様子で帯を締めながらアカギも答える


中居が夕食を机に並べている間は縁側へ出て、水野は煙草を吹かしていた
途中でアカギがげんなりして外に出てきた
中居に話しかけられて疲れたらしい
水野が煙草を差し出すと一本取り出したので、火をつけてやる

そうして厭世家が揃って人を避け煙草を吹かす
何を話した訳でも無かった
観光をしている間も

暫くして中から中居に声をかけられて戻る
水野がいくらかの心付けを彼女に渡して礼を述べると、愛想良く笑って帰っていった


「金は別で払っているんでしょう。なんで渡すの。」

「そういうものなのですよ」

「ふうん」


机には舟盛や釜飯など豪華な料理がところ狭しと並んでいる


「一度に全部持ってきて貰うように言ったので、畳にも乗ってますが許してくださいね」

「食事中まで出入りされたら落ち着いて食えやしない」

「そうおっしゃると思いました。話してみると面白いですけどね」


口に運びながら他愛の無い話をする
アカギは年頃なだけに良く食べた


「食べ終わったら宿を少し散歩しよう」

「あら、珍しいですね。あーたからお誘いとは」

「いいでしょう」

「ええ」


しっかりと完食して食休みを済ますと早速散歩に出た
一階から順繰りで回っていく、庭は後回しにした

二階の部屋で何やら騒がしい一角がある
嫌な予感がした
入り口に遊戯室の札
覗くと中で男達が十数人、麻雀やトランプに興じている
この部屋に張り詰めた緊張と熱気は…。
とくりと体の芯が波打って、水野の顔が無意識にひきつる


「アカギさん、これを狙って誘いましたね」

「クク、そいつはどうかな」


二人が部屋に入ると一気に視線が集まった
明らかに拒絶の色を示している
三台ある麻雀卓のうちの一台で丁度空いたのでアカギが席につく
卓には男が二人残っていた


「おい、ここはガキの来るところじゃあねえぞ」

「一人で打ちてえならなあっちでやんな」


この卓はコンビ打ち専門の卓だった


「だってさ。水野さん」

アカギが挑戦的な目で見上げてくる
どこまで計算をしていたのだろう
そうだった、この人は悪魔だった
やはり賭け事となると、油断していては足元を掬われる


「家に卓があるんだ、少しは打てるんだろ」


アカギのことだ、一人で打たせたって勝てるのであろうが、ここまで来て打たないというのも矜持に関わる


「…わかりました」


観光している時よりも生き生きとした目が自分を見つめている
アカギが本心から決めたことには否が応にも付き合うことなるのか
諦めて席に着くと相手の男達は意外にも乗り気だった
いい金づるが出来たと思っているのだろう
所詮数合わせなので、アカギに任せておけば大丈夫だろう






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