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「ちょっと出掛けて来ます、一日くらい家を空けるかもしれない」


そうアカギが言い残し、家を出てから三日
水野がそろそろ心配した方がいいだろうかと思い出した夜に彼は帰宅した
足元は覚束なく、何時の日かの様に洋服は汚れている


「…お帰りなさい」


この声はアカギに届いているのだろうか


「ああ、水野さん…腹減った」


体を大きく打ち付ける音と共にアカギは玄関から数歩でそのまま倒れてしまう


「アカギさん」


すぐに抱き上げて、様子を見るが意識は無い
呼吸はしているので一先ず安心だが、心なしか体が熱い

急いで担ぎ上げ、二階へ運ぶ
布団を引いて、横にする前に自分に凭れかからせてバランスを取りワイシャツのボタンを外していく
体のあちこちに擦り傷や打撲を放置した後がある
消毒もしなかったのか、膿んでしまっている箇所があった
化膿して、熱を持っているのか。
あまり良い状態ではない
怪我自体は少ないが放置してしまったためにここまで大事になっている

急いで湿らせた手拭いと救急箱を手に戻る
体の汚れを拭き取った後で、赤チンを手拭いに浸して傷口に当て消毒をする
素人判断ではこのくらいが限度である
あまり熱が下がらない様なら医者を呼ばなければならない
ズボンも脱がせ、着流しに着替えさせてから横たえる
腹が減ったと言っていたから、ろくに食べていないのかもしれない
そろそろ怪我も治って出ていく頃かと思った矢先にこれである


自分を曲げない性格であるのはわかっていたが、血のっけも多いのか
博徒ははったりが使えてなんぼではあるが、余りにも無茶が過ぎる

この年で博打の高揚を知ったらこんなところに閉じ籠っても、もて余すだろうことは予想できた
いずれは厄災を招くであろう
その火の粉は私にも、きっと
それでもこの子供を捨て置くことはできなかった
自分を破滅に導くとしても


布団に散らばるアカギの髪を撫ぜる


今までは一人で無茶をしてきたのだろうか
同じくらいの歳の自分も随分意地を通して、ひどい目に合ってきた
助けてくれる大人はいなかった、何よりも自分が助けを拒絶していた

…自分を投影しているのか。

アカギに特に思い入れは無いつもりでいたのだが、そうでもないらしい
私が傷を癒すことはできなくとも、せめて立ち上がれる様になるまでは居たら良い、と思う


あの頃の自分は何を求めていたのだろうと、ふと思い返す気になった。






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