第二夜
ざぶりと沈み、腰が打ち付けられたのは存外浅い場所だった
泥濘がクッションになり、痛めてはいなさそうだ
上から水色の光が満遍なく差し込んで辺りを照す
わたくしの沈む深淵はこんなものなのだと自嘲気味に思う
投げ出された黒髪は蠢いて、海に生息する藻のようだ
他に生き物はいない、わたくしと泥濘と水面だけが存在する世界
水の透明度が手伝って空気の真珠は上へ上っていく
吐き出される吐息は七色にあらぬものを反射する
まるで走馬灯だ
重力が軽く心地好い浮遊感に陶酔し、意識はぼんやりしている
我ながら感情的過ぎると何処かで遠い自分がせせら笑っている
お前には解離の癖がある
妄言や妄想はそこから沸いて出る
…ああ、クソッタレ
見上げると遥か水面で太陽ではない何かが光っている
それはさらさらと流れながらも力強く此方へ向かってくる
それが人間であるとわかった時には筋ばった手に腕を取られていた
わたくしは自身を地上に引き上げようとする悪魔を憎まずにはいられなかった。