第一夜


暗がりの奥に狐の面をした着物の女が立っている
此方をじっと見たまま、女はぴくりとも動かない
足元は見えなかった
俺は何をするでもなく、遠目にそれを眺めている
否、近づこうとしても体が言うことを聞かないのだ
明瞭に存在を主張してくる癖に、女はそれ以上近づいてこない
俺達を包む闇は交じって、隔てるものは何もあるまいに

体に命令を出すと予想に反して今日は足が出た
そのまま望む通りに女の前に向き直る
女は此方に見向きもせず、正面から視線を外さない
面に手を伸ばすと少々たじろいだようだった

何を恐れている、俺はお前を暴きたいのだ

女の幽霊のような白い腕は下に伸びたままだ
両の手で面に手をかけてそっと持ち上げる
中からぞろりと黒い髪が落ちてきた
ごわつく厚い毛髪を掻き分けて、中を探れば指先がつるりとした何かに触れた
ビー玉だ、目玉ほどの大きさのビー玉がのっぺらな皮膚の中心に埋まっている
俺は顔を毛髪に埋め、唇をその美しいビー玉に這わした
硝子は冷たく、心地好い

背中に女の腕がそっと回った気がした






[138/147]



戻る


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -