狐につままれる…19(if)

*夢主がキャラ崩壊してます


卓袱台に用意されたお茶漬けを食べながら、この後のことをアカギは考えていた
水野は朝から何か用事があるとかで出ていった
アカギが昼まで眠りこけていることはよく有るが、水野は規則正しく決まった時間に起きている
煙草を吸いながらぼんやり外を眺めて時間を潰しているうちに、約束の時間が近づいた
お茶碗と箸を流しに置き、お決まりのシャツに袖を通すと、適当な現金と鍵を持って玄関に向かって廊下を歩いた
そこでふとコートを着に居間へ戻る
このところは寒さが厳しく放っておくと風邪を引いてしまって厄介だ
体調を崩すと自由に動き回れない

漸く玄関の戸を開けると足元を何かが掠めた
それは家の中に入り込み、廊下を悠々と渡って閉まっている居間の扉の前で立ち止まった
振り替えってアカギを見ている
膝にも満たない高さの四足歩行
ふさふさとした黄色い毛並み
上品に伸びた背とつんと立った耳
性格の悪そうな目元はよく知っている


「水野さん、あんた狐になっちまったのか…?」


言葉がわかるのかケンッと相槌を打った
流石のアカギも頭が痛くなってきた
電気を付けて狐に近づく
不思議と大人しくして、狐はアカギを見つめている
外から来たので足先が汚れており廊下に足跡が並んでいた
本当に水野かどうかはわからないが、まだまだこれは家に居座りそうなので本日の予定を変更してコートを抜ぎ、狐を風呂へ連れていくべく抱き上げた
これ以上部屋を走り回られると厄介である
手足の裾を捲り、狐を風呂場に下ろす
蛇口の水で濯ぐと冷たかったらしく、体をぶるりと震わせた
風呂桶にお湯を貯め、本格的に全身を洗い始める
長い毛並みは泡を立て、狐は羊になった
首の辺りを洗ってやると気持ち良さそうに目を細めていた
仕上げに四本の足を隈無く洗い上げると泡は汚れで黒くなっていた
最後にお湯を被せて、水気をタオルで取った

居間に放すと狐は辺りをふんふんと嗅いで回ったりして確認し、座布団の上に落ち着いた
水野が使っていたものだ
アカギが部屋に居ても物怖じする様子はなく、興味深そうに辺りを見回している
まだ水野と断定できるほどの情報はない

「水野さん、俺はこれから代打ちの約束があるんだ、あんた、どうする」


アカギが発した音にぴくりと反応はしたが、狐に話しかけても返事が返ってくる訳はない
さて、どうしたものか。
動物のことなど全くわからないアカギだが、部屋に放置しておくのは流石に気が引ける


「仕方ねえ」


コートを羽織るとアカギは狐を抱き上げ、靴を履いた




「…なんだあ、その狐」


待ち合わせの料亭にやってきたアカギを見て、安岡は間の抜けた表情をした
何せアカギがふさふさした動物を抱いて来たのだ、驚かないはずがない


「ちょっと訳有りでさ、打ってる間面倒見てくれないかな」

「は」


アカギが安岡に手渡そうとすると狐はぱたぱた暴れた


「ん、小便か」

「あ、おい! 下に下ろすな」


安岡の予想に反して、狐はアカギの足元で大人しくしていた
寄り添いもしないが、全く離れる気配が無い


「参ったな」


約束の時間も近い
結局引き離すに離せず、狐を膝を乗せて勝負をすることになった
大人しく牌を見ているので麻雀がわかっていたのではないか
世にも珍しい光景に相手も驚いていたが、安岡の手伝いもあって事は無事に済んだ
狐は何時までもアカギについて回り、家に返ってあとは寝るだけという段になると布団に潜り込んで来た
もそもそアカギの脇に伏せて踞る
水野は結局帰って来なかった
狐の温かさにうとうとしていると頬をぺろりと舐められた
水っぽい違和感に思わず目を開けると水野が側に居た


「なんだ居たのか」


ぺろぺろ唇を舐めるので誘っているのかと思い引き倒すと、とんでもないものが目に入った
水野に耳が生えている
まさかと思い下を見るとふかふなの太い尻尾が着物の裾から覗いていた
腕にすり寄って来る姿は普段の水野からは想像も付かない
これは化かされているのだろうか、それとも本物の水野なのだろうか。


「水野さん…?」

「う、う」


音には反応しているようだが意味は聞き取っていない様子だ
水野は不思議そうに首を傾げる
言語を話せない化け狐がこの状況下で人間に化けるとは考えにくい
本物の線が高いか。
アカギが耳に触ると少し鬱陶しそうに身じろいだ
薄い狐の耳は温かく、神経まで通っているようだ
手触りの良い尻尾を撫でるとぴくぴく震えて嫌がるのでちょっとした悪戯心で続けていると、アカギの胸を強く叩いて抗議をした
あーだとか、うーだとか言って無茶苦茶に暴れるので顎を掴んで自分の方を向かせた


「アカギ」

「あ」

「アカギ」

「…ぎ」

「違う、俺はアカギ」

「ん」

「…ア」

「あ」

「カ」

「か」

「ギ」

「…い」

「アカギ」

「あかぎ」

「そう」


水野に自分の顔を触らせて覚えてもらう
鋭利さの抜けた瞳と見つめ合う


「…あかぎ」


呼び捨てにされるのに新鮮さを覚えながら、下の名前を吹き込んでおけばもっと面白かっただろうかと考える


「アカギ」


水野は普段見せない柔らかい笑みを浮かべて好意を寄せてくる
アカギが頭を撫でようとすると何故かその手に顎を乗せた、間が抜けている


……明日元に戻ればいいが。






もはやifでもない話





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