完結と補完の並列存在…13.19(if)

何時もの様に目映い朝日に視界を刺激される
目を開けると見慣れた寝巻きを纏う首筋がある
朝餉を作るべく起き上がった
布団に手を付いた折りに触れた肌に疑問を抱く

アカギを避けて前後に手を付いたはずだが、何故後ろ手に肌に触れたのだろう

目の前にアカギがいるので、後ろに人がいるはずがないのだ
ぎょっとして振り向くと同じく見慣れた黒い着流しを着た白髪があった
年寄りの様に色素が抜け、それでいて腰がある頭髪を持つ人間は早々いない
アカギとの唯一の違いは、それが白子だったということだ

見紛う事無き、13歳前後の赤木しげるである

幾ら見比べても同一人物が横になって眠っているので、水野は一先ず台所に向かった
問題の先伸ばしである。
冷蔵庫を開け、気分で思い付いた献立を作る
憶測は様々あるが、視覚情報だけでは如何とも言い難い
流れに身を任せることに決めた水野はアカギ達を起こしに寝室へ入った
先に昨日も家で夕飯を食べていた20歳の赤木しげるの肩を叩く


「お早う」

「おはようございます」


特に変わった様子は見受けられない


「アカギさん、朝から申し訳ないのですが、非常に厄介なことになってまして」

「うん?」

「…水野さん」


しまった、起こしてしまった
目をやると静かに起き上がる13歳のアカギ


「…取敢えず、朝御飯、食べましょうか」


アカギを二人一辺に相手することになるとは、骨が折れそうである
三人分の食器が並ぶ卓に着いても、なかなか誰も言葉を発しなかった
口火を切ったのは13歳のアカギだった


「どうやら場違いなのはオレらしいな」

「ああ、ここはオレの仮住まい」

「水野さんは前に見た姿と変わっていないように見えるが」

「私は昨日此処で眠りに付いた記憶がありますから、貴方からすると未来の水野もよ子ですね」


13歳は腑に落ちない様子だが、この人は老けないんだぜと20歳が話しかけている


「…両方ともアカギさんだとややこしいですね」

「そうだな」

「適当に何か決めてよ」

「じゃ、20歳の方をアカギさん、貴方はしげるさんでどうです」

「下の名前で呼ばれるって新鮮だな」

「…」


アカギは何やら羨ましそうにしていた
お互いに異様なものを見ているといった様子だ
アカギ同士の掛け合いも何だか不思議なものである
きっと当人達が一番困惑しているだろうが。
本人達にサシ馬勝負をさせたらどうなるのだろうか。


「お前昨日は何をしてたんだ」

「昨日ね、いつも通り雀荘に行って、負けた奴に因縁つけられてやり返して、疲れた体で安宿で寝たけれど」

「いつ頃ですか」

「昭和35年」

「15歳、ですか」

「ああ」

「タイムスリップ、なんでしょうかね」

「あんたSF好きなんだっけ」

「いいえ」

「その筋ならオレの記憶が分離した可能性も考えられるな」

「なんだっていいさ、当面帰れそうにないんだから」


お茶碗を置いてご馳走さまをするとしげるは流しへ食器を片付けた
そうして自分の足元を見てから呟いた


「洋服が無いな」

「オレのを着れば。寝室の棚に入ってる、適当に使って」


アカギのシャツは矢張り大きさが合わなかったようで、少し袖の長い紺のシャツを着たしげるが寝室から出てきた
同じ風体になると本当に瓜二つだ


「買いにいきましょうか」

「ああ」

「オレも行くよ、色々と入り用だろ」


アカギの間で何やら視線が交わされるが、水野にはそれがどういった意図なのかわからなかった
外に出ると回りの視線がいつも以上に気になった
背丈は違うが、殆ど同じ人間が二人並んで歩いているのだ、目立って仕方がない
心無し足早に洋服屋に駆け込むと、しげるは目に入った
白いワイシャツと靴下、スラックスを購入した
その場で着替えて、着て来た洋服を紙袋に詰めた


「靴も買わないといけないですね」

「オレは下駄のままでもいいけど」

「あれオレのでしょ」


アカギ同士がお互いに向ける意識が何か、水野は理解する
同族嫌悪である
何が根元なのかはわからないが、自分は板挟みの状態に近い


「…買っておいて損はないでしょう」


家路に着く頃には水野は珍しくぐったりしていた
目に見える衝突こそないが、そもそも化物二人を一度に相手にすること自体が疲れるのだ
夕飯は外で済ませ、銭湯に入ってきたので後はもう寝るだけだ
寝室で寝巻きに着替え、押し入れから布団を出しながらはたと考える
枕はいいとしてこの場合、どの様に寝るのだろうか
アカギ二人は絶対に同じ布団で寝ようとしないだろう
そうなると自分がどちらかと同じ布団に入ることになるが、これはまた面倒そうだ
開け放した後ろの居間にしげるが立っている
察しの良いしげるの事だ、水野が何を考えているのか理解しているのだろう
手首を捕まれ、布団へ引きずり込まれた


「面倒な事とは距離を置くタイプだからな、あんた」

「よくわかっていらっしゃる」


事実、水野は何処か一人で夜を明かしてしまおうとも考えていた
急に横になったので敷布団からはみ出した左手に畳のざらざらとした感触がした


「なあ、どうしてまたオレと一緒にいる」


両の手首を押さえられねじ伏せられている
しげるの態度には加虐的な色がある
どろどろと数年に渡り熟成された熱湯の様な感情
それをずっと今日まで押さえつけてきた
何れ消えてなくなると思っていたからだ
しかし、その原因が目の前にいるとなっては話は別である
水野もそれは薄々理解していた
水野の別荘を飛び出してからしげるが今日まで自分との関係性を消化仕切れていない可能性があること
何分多感な時期だ、それだけに危うい


「貴方が、会いに来たのです…っ」


右手は容赦なく首に掛かり締め付ける
激しく抵抗するが、気管を締め付けられ体力を奪われるばかりだ
利き腕は押さえつけられ、反撃も儘ならない
身をよじり左の肘を躊躇い無く顔に打ち付けると、しげるの鼻からぽたぽたと鼻血が垂れた


「…ククッ、相変わらずだなあ、あんた」


しげるは楽しげに顔を寄せ、水野の頬に乗った自分の血を舐めとる
時々この無邪気さを恐ろしく思う
そのまま薄い唇が、水野の口に移動しようという時に後ろから声がかかった


「何してる」


アカギがいつの間にか後ろに立っており、しげるの襟を引っ剥がした
しげるは不意の出来事にそのまま背中から転がり、壁に叩きつけられた
アカギは自分にも容赦しないようだ


「数年前のあーたですよ、想像が付くでしょう」

「まあな」

「ってぇ」


結局、布団をくっつけて水野を中心に川の字で眠ることになった
昔からのことだが、水野と横になるとすぐに二人とも寝てしまう
先程の剣幕は何処かへ失せ、気持ち良さそうに眠っているアカギ達を恨めしく思う
真ん中は敷蒲団の間で寝心地が悪く、水野が損な役割を引き受けさせられたのだった







もしもアカギが二人に増えたら。


最近はアカギの可能性を模索しているので、ぶっ飛んだ設定が多いです。






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