お気に召すまま…13(番外)

「駄目だ、このままじゃ腐っちまう」


アカギが畳の上にごろんと横になった
この年では大人の後ろ楯が無ければ、賭場もろくに出入りが出来ない
この辺りはほとんどが会員制か、一見お断り
雀荘も東京ほど多くは無かった
アカギは燻っていた

水野は何食わぬ顔で針仕事をしている
この狐はアカギが見ている限り、大概家事をしているか、麻雀牌を弄っているかのどちらかだ
博打に出ている様子はほとんど無い
勿論賭博こそ水野を生かすものであるのは確かだが、アカギほど唯我独尊でも無い
ちりちりとした熱から遠ざかり、日常生活を送っていても平気だ
死にながら生きることに水野は慣れてしまっていた
アカギほど賭博に純粋ではないから、自分はいつまでもこれには勝てないだろうとどこかで水野は思っていた

逆に何故ここにアカギがいるのかわからない

この別荘に居座ることはアカギにとって休息に他ならない
時々は東京に博打をしに出ているようだが、不便で仕方ないだろう
博打を優先させるアカギにしてみればこの行動は異常だ

もて余しているのなら出ていけばいいものを。
自分に何を望んでいるのやら


水野が麻雀牌を手にしている時のアカギの熱視線ったらない
このままでは博打で消化してきた諸々が全てこちらに向かって来そうである


「あんたさ、三味線弾けるんだろ」

「何故それを?」

「幽遠寺枡視に聞いた」

「会ったのですか」

「たまに麻雀を打つんだ」


意外な答えが返ってきた
アカギが枡視とつるむとは。
幽遠寺の屋敷に出入りしているということだろうか


「あいつは今のあんたを知りたい、俺は俺の知らないあんたを知りたい…利害関係さ」


枡視は嘘は絶対に吐かない
人間が日常のちょっとしたことで誤魔化してしまうようなことも全て真摯に立ち向かおうとする
そういったところは、アカギの博打によく似ていた
案外気が合うのやもしれない


「弾いてよ」


この家にあったかしらと思いを巡らせる
押し入れの奥にずっと仕舞っていたものが確かあった
たまの気まぐれだ、言うことを聞いてやろう
水野は立ち上り、押し入れへ向かった




弦を弾くのを止めると、すうすうと寝息が聞こえる
アカギは空いている左の膝に器用に頭を乗せ眠っていた
膝に乗ってきた時から少し音は控えめにしたが、それでも楽器が直ぐ近くで鳴っていたというのによく眠れたものだ
昼を大分過ぎ日が傾き始めている
いつもならそろそろ夜に向けて家事をこなし出す頃合いであるが、まだいいか。
重みのある頭を一撫でして、今度は夜の歌や子守唄を唄う


今日の夕飯は何にしようか。






「春の友人」より





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