古都4…19(番外)

祇園の町は古くからの街並みを京でも強く残している
老舗も多いので町歩きを楽しもうという寸法だ
瓦屋根や二階の回り廊下を目で楽しみながら三年坂をぷらぷらと歩く
昼飯は蕎麦を食べた
賑わう店内で無言でずるずると蕎麦を啜る二人連れはさぞ奇妙だったろう
食事の時の会話は、気が向いた時にしかしないので黙々と飯を食べることの方が多かった
それでいて会計は、片側の女の愛想がいいのだから不思議である
蕎麦屋を出ると気儘に辺りを見て回った
土産に何か買うのも良いだろう
店先に並ぶ下駄や簪を見て、この頃はちっとも身形に気を使っていなかったことに水野は気がついた
最低限であって遊びが無い
何分、元居た店に全て置いてきてしまった
高価なものもあったから、もう残ってはいないだろう
流れの身なので沢山は持てないが、一品くらいは購入してもいいやもしれない
表に結い紐や簪を置いている店に足を傾けた


「何か買うの?」

「たまにはいいかと思いまして」

「へえ」


並んでいる簪の一本一本を物色する
鼈甲などよりは、透き通った蜻蛉玉のものが好きだ
側のアカギは興味が無さそうにしている
この悪魔の白にはよく似合いそうなものだが、本人に言えば気味悪がられるだろう
揺蕩う真水の色の蜻蛉玉が目に入り、手に取った
軸を回すと反射で中がきらきらと光る
見事な逸品だ
これにしようかと考えていると隣から手が差し出された


「これは」


見れば根付けがアカギの指から下がっている
中指の爪ほどの大きさのくすんだ真鍮の玉
軽く揺らすとりんと優しい音がした、水琴鈴だ


「良い音ですね」

「あんたは鈴でも着けておかないとすぐに何処か行きそうだから」

「お互い様でしょうよ」


水野が気に入った様子だったので、アカギは会計を済ませた
水野もついでに簪を購入する
店の外で根付を手渡すと取り出して袖に入れていた小銭入れに着けた


「これで帯にも挟めますね…これを」


水野が簪の袋から何かをアカギに差し出した
封を切ると男物の扇子が入っている


「少々季節はずれですがね」


人から何かを貰ったのはあの箸以来だった





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