古都3…19(番外)


凛とした冷たさに意識が浮上する
いつの間にねむってしまったのだろう、体を起こすとしゃんと敷布団の上にいた
隣の布団でアカギは背を向けて横になっていた
柔らかい日が布団に降り注いでいる
もう朝だ

やおら立ち上り、浴衣を整え、身支度を始める
洗面所で顔と口を濯ぎ、髪をすく
顔に粉をはたいて、紅を引いていると鏡に寝ぼけ眼のアカギが映った


「おはようございます」

「おはよう」


丁度化粧を終えたところだ、洗面所を譲って着物に着替えた
さっさと布団を畳んで隅に寄せる
アカギは内線で朝食を頼んでいた
縁側の窓を開けると気持ちのよい風が吹き込んでくる


「今日は伏見稲荷?」

「そうしましょうか」

「取り敢えず飯だな、朝食は母屋の方なんだ」

「じゃ、そのまま出ましょう」


母屋の食堂に行くと朝食が用意されている
電話をかけてから余り時間は経っていないのだが、流石である

庭は手が行き届いて
煮魚や鱧などの懐石料理に舌鼓を打った後、
タクシー、電車を乗り継ぎ伏見稲荷駅へ向かった

伏見稲荷駅から歩き、稲荷神社の大鳥居をくぐる
早くに到着したにも関わらず、観光客で賑わっている
石段はそこまで急ではなく、道も塗装されているのでこれならば下駄で来ても楽々登れそうだとアカギは思っていた
本殿を見てから、千本鳥居に差し掛かると沢山の鳥居がトンネルのように続いていた
更に奥へと進んでいくことで、その予想は裏切られる
普通の人間が着物で来られるのは精々千本鳥居くらいまでだ
途中おもかる石なるものがあったが、二人して素通りした


「下駄で来ましたからね、三時間はかかるでしょう」

「時間はあるからな」


そこからの道のりはぐっと厳しくなった
朱色の鳥居が先までずっと続いている
荒削りの階段が視線の先に広がっていた
始めは広かった道幅も今は半分ほどになっている
スニーカーで幾らか若い自分に劣らずについてくる水野は何者だろうかと、歩きながらアカギは思っていた
前の頭のゆった髪が階段を踏みしめる度にゆらゆらと揺れた
まるで尻尾のようだ
流石に秋口でも昼になれば日差しが強くなってくる
熊鷹社を抜け何軒か茶屋を横目に見ながら登っていく
そろそろ12寺頃だ
四ツ辻目の仁志むら亭で一休みすることにした
表の椅子に座って一服する


「山登りは一苦労ですねえ」

「暑いな」

「ええ」


水野は扇子を広げた、殆ど勝負の時にしか見ない代物だ
ここから京の町を見下ろすことが出来る
今まで鳥居と木で視界が塞がっていたので、壮観だった


「さて、もう一頑張り」


狐は立ち上り、にこにこと笑っている
まだまだ余裕そうだ



頂上の一ノ峰上社は別段開けた場所でもなく、あまり山頂という実感は無かった
下りは反対側をぐるりと回る
途中の前屈みになった妙な狐の像を一撫でして水野はずんずん進んでいく
四ツ辻に戻り更に下へ


「この先の荒木神社は良縁を運んでくださる神様がいるのですよ」

「必要あるかい?」

「貴方は自分で何でも引き寄せてしまいますものね…」


他愛のない話をしながら歩いていると、産場稲荷という場所に着いた
安産に良いらしいこの場所に水野はわざわざ足を止めた
子供を生むつもりではあるまい


「私はここで産まれたのですよ」


薄気味の悪い笑みで狐は笑った
本当のところはわからない
だが、此の場所の由来を読んでアカギはなるほどなあと思ったのだった
駅まではあと少しだ





一向に終わる気配がありませんが、宜しければお



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