橋渡し…19(番外)




この頃はよく通り雨が降った
空気はふわふわと暖かい絹のようにすり抜ける
夏の茹だるような暑さは何処かへ消えた
季節が秋に差し掛かろうと、歩みを進める中で
アカギは相変わらずだった

明け方まで賭博に明け暮れ、昼になろうかという下町を歩いていた
ふと、直感がアカギを商店街に導いた
この直感が何に働いているのか不思議に思いつつ、賑わっている通りに差し掛かると何処かで見たことのある店が目に入った
中を覗いて記憶が合致した
一度水野とここに来たことがある
何時だったか、再開する前、まだ水野と東京にいた頃に…。
途端にアカギの回りの風景が鮮明に開けた
そうだ、ここはあれの店がある町ではないか。
この商店街はよく食品を買いに通った場所だ
どの店もなんとなく見覚えがある
作りが少々変わったから気づかなかった

細道を脇に入り、少し歩く
幾らか期待していた
この先にあるのだ、あれと暮らしていた場所が。

その場所には空き家が残っていた
外観は昔のままだ
暖簾もかかったままになっている
扉に手をかけるとからからと音を立てた
埃っぽい臭いが鼻に付く
中は荒らされていた
机がひっくり返され、至るところに割れた食器や塵芥が散乱している
あるものを探すため台所の引出しを開けた
手前に引き出されがしゃんと音を立てたカトラリーの中に、それは奇跡的あった
手に取ると少し埃が付く
今だからこそ指に馴染む長さ
水野は中学生のアカギに大人用の箸を買い与えていた
本当にアカギを子供扱いしていなかったのだ
その事実に心が少し暖かくなった
洗えばまだ使えそうだ

ポケットへ押し込むと、外の階段を上り二階の水野の部屋へ入る
上がると床がぎいと音を立てた
ものが盗まれ、殺風景になった居間
中央にあったはずの机と麻雀牌はどこかへ消えていた
元々ほの暗い印象だった部屋は煤けている
辛うじて残っている棚の引出しを開けると、書類や小物が出てきた
箪笥の着物は全て持ち去られている
小物入れに丁寧に編み込まれた紅の結紐が残っていたので、それを持ち帰ることにした

家は数年でかなり傷んでいた、いずれ取り壊されるだろう
思えば水野の揃えた調度の中での生活から随分離れていた
あの空間は妙に心地よく、自分は絆されてしまったのかもしれない
賭博以外の自分をそこに置いてもいいと思う程度には気に入っていた
長らくあれの作った飯を食べていない
狐は夕方にはホテルいるはずだ
室内には簡易的な台所もあった
戸を開けると雑多な音が耳に入ってくる
先程までいた部屋が妙に静かだったのだ


帰りに適当に食材でも買って帰ろう


元の靴は手に持ち、一階で見つけた自分の下駄をつっかけて、ゆるりとアカギは歩き出した







「夏の恋人」終了後







[117/147]



戻る


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -