宵の遊び…19(番外)





夜中にチャイムが鳴った
水野が素早く起きて刃物を足元に忍ばせる
羽織を肩にかけ寝室を出た

アカギはまだ帰っていない
今夜は雀荘に行くと言っていたので、撤マンコースだと思っていた
あの悪魔がチャイムを鳴らしたことは一度もない
アカギの「客」の可能性が一番高い
気を引き締めて玄関前に立つとすみませーんという間の抜けた声が聞こえた
とてもここに禍をもたらすものの声ではない
少々毒気を抜かれつつ、扉を開けると中年の男性と目があった
アカギの肩を担いでいる


「え、女!?」


黒髪に隈をこさえた筋肉質の男性が、ぎょっとしている


「あの」

「水野さん」


どちら様、そう聞こうとしたのだが、抱きついてくるアカギによって遮られた


「わ」


加減無くのしかかってくるので転びそうになるのを男性が助けてくれる


「すみません、夜遅くに」

「いえ」

「あの、アカギの知り合いの南郷ってものなんですが…。」

「はい」


すり寄ってくるアカギを手で制しながら会話をする


「久しぶりにばったり会って飲みに行ったらこいつ酔っ払っちまって…」

「ああ」

「それじゃ、お邪魔しちゃいけないのでこれで…」


こんなに酔っ払っているところを水野も初めて見た
アカギの痴態に頬を染めながら南郷は気まずそうに出て行った
なんてことだ…
水野も恥ずかしさあまり死にそうである
そうこうしているうちにアカギの手が掴むものから撫で擦るものに変わっている


「…アカギさん」

「ん」

「ん、じゃありません」


支えきれなくなって玄関先の廊下の壁にぶつかった
肩から激突して痛みが走る
アカギは半目で寄りかかって船を漕いでいる
呑気なものだ


「酔ってますよね」

「よってらい」


呂律まで回らなくなっているのに何を言っているのだ


「布団行きましょ」


くんずほぐれつしながら引きずるようにアカギを布団に横たえる
あの南郷という人間は信頼のおける存在なのだろう、そうでなければあのアカギがここまで飲まない
それにしても酒臭い
アカギが首に腕を回してきた


「寝ますよアカギさん、離してください」

「閨で二人でする事なんて一つだろ」

「はいはい」


軽くあしらって寝かし付けようという思惑は失敗に終わる
あれ、と思ってからでは遅かった
いつの間にか首尾よく上下が逆さまになっている


「それは承諾ってことで良いんだよな」


これは一芝居打たれたのでは、と気づいた時には唇が塞がれていた
目の前にははっきりとした瞳がある
ぺろりと下唇を舐められて得意気に笑う顔が離れる


「一本取られましたね」

「観念しな」


穏やかに笑った狐の唇から吐息が漏れる
水野は両手を上げて降参の意思を示した
その手に指を絡めて熱の籠ったアカギの瞳が近づいてくる
首筋に顔を埋められると白髪が触れてくすぐったい
両手が塞がっているのでろくに身動きは取れない


アカギはそのまま静止している
可笑しいと思い、横に転がして様子を顔を覗くと寝息を立てていた

あれだけ挑発をしておいて眠ってしまうとは


このまま逆にひんむいて縛り上げ、悪戯でもしてやろうかと胸を踊らせる水野だった







「夏の恋人」終了後






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