思い立ったが吉日…19(番外)




水野が帰宅するとアカギが畳の上で昼寝をしていた
大方は閉まるドアの音に気が付いて目を覚ますことが多いのだが、腕を後ろで組んで枕にしてスースーと寝息を立てている
買い物袋を台所に置いて近づいた
傍に正座をして顔を覗き込む
寝顔だけは年相応だ
白子の面影がある
右手の甲で頬にそっと触れる

暖かい

アカギの呼吸の合わせて胸が上下するのでそれに伴って頬も少し動いている
そのまま甲で頬を撫でる
閉じられた瞼の縁の睫毛までが白い
そういえば、この悪魔が何故若くして白髪なのか、聞いたことがなかった
アカギは殆ど自分の話をしない
思い返してみると水野自身も自分の昔話をしたことがなかった
アカギについて自分は何を知っているだろう
ギャンブル狂であること、唯我独尊で人の心理を読むことに長けた悪魔であること、それでいて無頼の同類を探している
無謀に見えて計算ずく、冷たいようで熱い、人の裏をかくのが得意
ギャンブル以外への興味は薄く無欲だが、人並みにものは感じている様子
よくわからないが自分に好意を寄せている
それがアカギ自身の中でどう定義されているのかは不明
アカギの心理や世界に関しては全くの不明
それなりに長い付き合いだが、外面的なことしかほとんど知らない
それで良いと思い今まで接していた
今は、少しアカギのことを知りたいと思う

硬質な髪に指を通す
指通りがよくさらさらしている
端正な顔立ちなので、女性に困ったことは無いだろう
煙草を飲む様子は様になっている、目を奪われることも多い
閉じられた目蓋が震え、ゆっくりと開いた


「…帰ってたの」

「ええ」


気だるそうにアカギが喉から声を出す
横になる胸の上に頭を乗せて、心臓の音を聞いた
力強く脈打っている
体の半分近くの血を抜いても回復したらしい生命力の音がする
やはりこの悪魔も生きているのだ
アカギに腕を引かれて乗り上げるような形になる


「珍しいな、あんたから触れてくるのは」


上機嫌そうに鼻を鳴らして、狐を逃がすまいと肩を抱く
逃げるつもりは無いので水野も大人しくしていた
たまには素直になるのも悪くないだろう
胸元に頭があるので会話をすると上目遣いになる


「アカギさんは何故私と居るのです?」

「いきなりだな。あんたにしか埋められない場所があるからさ」

「それはどういった?」

「俺にもよくわからない」

「そうですか」


アカギに抱き締められると安堵する
胸から響いてくる低音も心地が良い
自分の鼓動がいつもより早いことに気が付き、我ながら俯瞰した気持ちでそれを感じていた


「俺は博打で生きている。それが出来なくなったら死ぬだろう。言っちまえばあんたも博打の間の休憩、ただこれは「現時点」の俺の意見だ」

「…私は貴方が貴方がらしく在れば良いと思っています。あーたに変化は望んでいない」

「そう」

「でも、今の話を嬉しいと思っているのも事実です」

「面倒だな」

「そうですね」

「水野さんはどうして俺と居る?」

「惚れているからですよ」


真っ直ぐな言葉
目を細めて笑う様は相変わらず妖しい
光彩から漏れる火がゆらゆら揺れて、見るものを化かす
水野がこんなことを口にするのは滅多に無い
アカギは驚きで腕に収まっている狐を凝視した


「…参ったな、今日のあんたはやけに甘い」


目を反らしてらしくもなく頭を掻いた
自分が変化するとアカギからも違う反応が返ってくるのが可笑しかった









「夏の恋人」より






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