或視点…19(番外)



*第三者(モブ)視点




目の前の白髪の男がチェックインを済ませているのを受付の女は見ていた
連れは一人、着物の女性、ロビーのソファに座っている
ロビーに二人が足を踏み入れた時は遠目に老夫婦が観光にでも来たのかと当たりを付けたのだが、男がこちらまで来ると想像よりもずっと若く驚いた

先程から密かに二人を交互に見ているが、どういった関係か全くわからない
この洋風の古ぼけた館内で和装の女性がいると、文明開化を思わせる
彼女の醸す雰囲気が古風なのか、兎も角時代錯誤だった
紙面に目を通すと二人の名字が違っている
住所は軽井沢
取り敢えず、素泊りで一泊したいとのこと

同棲はしているが未婚といったところだろうか
それにしては余りに歳が離れている
親戚ということも考えたが、それならば部屋は2つ取るだろう
…不倫?
それにしては、ベットがツインだし

感情はその辺に流して、事務的に簡単な説明をしてから鍵を渡す
男がフロントを去り女性に声を掛ける
二人の荷物は旅行にしては少ない
訳有りに違いないが、堂々とした佇まいだ
予想に反して男女間特有の空気が無いので、受付は首を傾げるのだった


アカギには放浪癖がある
大勝負をした後の厄介事を避ける目的が大きいが、風の吹くまま気の向くままは性分のようだ
他の人間に消息を掴ませない
アカギと麻雀で勝負をしたすぐ後、水野はもう定住をしなくても良いと言った
何処か一点にアカギを縛り付けるよりは、自分が変わろうと思ったのだ
それからはずっと様々な宿を転々としている


幾分もしないうちに二人が手ぶらでフロントに戻ってきた
鍵を預けてロビーを後にするかと思いきや、ホテル内のレストランに向かっていく
表のメニューを女性がしげしげと見ているのを青年は待っていた
メニューを一周すると女性が先を行く形で二人は店に入っていった
その後は担当が代わって確認していない


日付が変わろうという時になって、例の二人が帰ってきた
やはり出掛けていた
バックを手にしている
このホテルは24時間出入りが自由で、鍵も預けることが出来る
本来ならばマナー違反であるが、他の従業員もいないし、興味本意でつい、話しかけてしまった


「おかえりなさいませ。観光は如何でしたか」

「…ええ、良いところですね」


話してみてわかったが、女性の方も意外に若い
いや、女性で正しいのだろうか
存在が薄いというか、凝視するほど理解が出来ない
見ていると目眩がしてきそうだ


「行こうか」


青年が声を掛ける
エレベーターへと赤い絨毯を踏みしめる二人は、親しい間柄ならば遠く、他人としては近い距離を保って歩いていった








「夏の恋人」終了後






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