まどろみまろみ…13(番外)





がたがたと何処からか物音がするので、元を探して部屋を散策する
襖を開けると狐が右足を押し入れの縁に突っ掛けて布団を出そうとしていた
着物の袷を割り、右足首が露出してなんとも端ない
背後には枕やかけ布団がある
敷布団をだけが押し入れに並々と積んである布団の山の一番下にあり、取り出しにくいようだ
上の布団を退ければいいものを、ものぐさを引き起こしてそのまま下から引き抜こうとしている

時々いきんでは踏ん張って敷布団を取り出そうとしているが一向に抜けない
水野にしては珍しく滑稽なことをしている


「何してるの」

「抜けないのです」

「見りゃわかるよ。上のを退ければいいじゃない」

「戻すのが面倒です」


予想通りの返答である


「アカギさんも手伝ってください。もう少しで抜けそうなんです」


手招きをするので仕方なく布団の端を掴み、加勢する
綱引きの要領で掛け声と共に引くと確かに手応えがある
何度か引き続けるとずるずると姿を現した
あと少しだ
もうひと踏ん張りと思い切り力を入れる


「わあ」


手応えが少なく布団はすっぽ抜け、二人とも布団と共に後ろの布の山に倒れこむ
余程力を入れたのだろう水野が先に転びバランスを崩したアカギが上に倒れこんだ
咄嗟に肘を着いたので直撃は免れる
目の前に顔があり、どきりとしたのも束の間
押し入れの布団の山がどっとアカギの背中に倒れこんできた


「痛っ」

「わ」


雪崩が収まる頃にはすっかり二人とも布に押し潰されていた
目の前にはお互いの呆然とした間の抜けた顔がある
見たこともない表情だ


「…」

「…」

「…ふふ」

「…っ」

「ふふふふ、くくっあはは」

「…ッククク」


一度笑い出すと止まらなかった
元々二人とも表情が豊かではないので、間抜け面は早々拝めない
げらげら笑いながら水野がちょっかいを出してくるので負けじと応戦した
ばたばた暴れる度に布団が巻き付いて、雪達磨ならぬ布団達磨だ
終いに相手を押さえ込む為にしがみついたところで落ち着いた


「…はあ、あーたの笑っている顔、初めてちゃんと見ましたよ」

「水野さん、そんな風に笑えたんだね」

「私だって笑いますよ」

「いつも怪しい笑い方しかしないじゃない」

「笑うと怖いよりましですよ」


そうそう触らせて貰えないので、今の体勢を良いことにぎゅうと抱き付いた
背中に回った腕がリズムをつけてぽんぽんと叩かれる
今日は日が柔らかい
少しかび臭いが、このままくるまっているのも悪くない


ぬくさを逃がさないようにアカギはそっと顔を伏せ、笑みを浮かべた









「春の友人」別荘より






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