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水野は負けた
赤木しげるが化け物だと言うことはよく分かった
うちに秘める熱さも、天才的な閃きも全てこの身焼けるまで飲み干した
満足だった
アカギはまだ自分を見失っていない
今ならまだ間に合う


「…約束通り、命を」

「…」

「ここで自害すると幽遠寺さんに迷惑がかかりますので、別の場所で良いですか?」

「やっぱり死ぬ気でいたのか」

「そういう賭けだったでしょう」

「あんたが死ぬ必要はない」

「え」


ぐらりと嫌な予感がした
卓に座している水野にアカギが手を差しのべる
疑問は残るが勝負が着いたのなら長居は無用だ
水野が手を取って立ち上がるとアカギが先導をしてこの場を後にした


アカギは賭けたものは違えない
命を賭けた勝負をアカギは何か別の意味に捕らえていたらしい
自分が張っていたものとアカギのそれに差があることに水野は落胆する
疑問よりもアカギに裏切られたという気分の方が大きかった
あれだけの大勝負をして、命を張っていないなんて
まさかとは思うが一度乗った水野の命が惜しくなるほどに堕落してしまったのだろうか


二流の赤木しげる


ぞわりと寒気が駆け巡る
アカギは歩いてばかりで口を開かない
足は家に向かっている
過ぎていく時間が水野を追い詰める
静かな夜道を無言で歩いていれば、一度浮かんだ憶測は嫌でも膨れ上がる
息が詰まりそうだ
動機が早まり、心なしか頭がくらくらしてくる
赤木しげるを自分の手で変えてしまった
本来、人と関わるとはそういうことだ
赤木しげるも例に漏れなかった
自分ごときに動くような人間じゃないと、どこかで安心していた
生温い関係に陥っていたらしい…油断だった

ああ、なんて安直な考えだったのだろう…

この人間離れした悪魔を変えてしまった
元は人と長く付き合うような人間じゃない
少なくとも今までのアカギであったら、命を賭けるとは即ち敗北が死ぬことだったはずだ……! はずなのだ…!!


水野の手が突然払われた
アカギは振り返る
黒い双眸は相変わらず読めない
耐えられなくなって水野は弾かれたように走り出した






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