11-2




幽遠寺の部下二人が他に卓に着き、対面にはアカギがいる
静かな部屋だ
他には誰もいない
この屋敷の家主さえも出張っている
かけるのは命、そう伝えてある
勝敗は他の二人が証人になってくれる

牌がぶつかる音だけが響く
アカギ相手に手は抜けない
様子見どころか寧ろ相手に材料を掴ませないくらいに速攻で勝負を決めなければ勝てないだろう
長引けば長引くほど不利になる
東一局、洗牌の段階で早速積み込みを仕掛ける
後は自分の山が無くなるのを待つだけだ
予定通りのツモ上がり
あくまで現場は掴ませないよう、急ぎ過ぎずタイミングを計って形を変える
勿論何もしない時もある
変則的に仕掛け続ければ、アカギでも特定に時間がかかる

アカギの中で13の時に襖の間から見たあの技が鮮やかに甦った
間近で見るサマは13の時よりも切れがある
完成された技術はアスリートの技のように人を惹き付ける
アカギも例に漏れず息をするのを忘れていた
牌を体の一部のように扱う技はアカギにも直ぐには真似出来ない
今まで対局した雀士とは違った戦術に心踊る
挑戦的な眼光はアカギの征服欲を刺激した
この化け物が自分の側にいるのだ
…美味そうだな
思わず伸びそうになる手を堪える
卓の向こう側は遠い

そうこうしているうちに半荘が終了する
代打ちの勝負でもそうだが、水野との勝負では特に様々な場所に気を配らねばならないので気力を消耗する
アカギの点棒はこの間にかなり毟られ、下手をすると次の局で飛んでしまうほどに水野はえげつない上がりを続けた

次の半荘でもアカギはぎりぎりのところで観察を続ける
水野の癖の一つも見逃さない
サマが見抜けないのならその先を狙い打てばいい
思考は打ち筋に現れる
少しずつではあるが、指先の微妙な動きから水野が何をしているのかがわかってきた
乗るところでとことん大きく出るので調子に乗ると物凄い役を繰り出してくる
そもそもサマ師はサマが見つかれば最後、勝敗以前に命を失うことになる
そういうぎりりぎりの死線が水野を強くしていた
例えるならば、今にも切れそうな手綱を平然として引き続けている状況
そうして、その手綱は引けば引くほど大きなものを引き寄せる
水野は自分と違って生きるために麻雀をしている
手元の手綱が危うすぎて、生と死の境界が曖昧だ
しかし手綱を引かせるのは間違いなく生の意識、張り詰めた綱に身を任せることの生の快感
その手にはもう血の気は残っていない、心臓だけが熱く脈打つ
どの道、綱を引くことを止めたら鼓動が止まってしまう
それならば、切れて後ろの闇に堕ちようが、綱を手放そうが同じ
死にながらに生きている異形


これが水野もよ子の本質


この勝負は水野からの問いである
自分より強いことを証明できなければ逝けという挑戦
理由はわからないが水野は何かに疑問を抱いている
そしてこれが終わればそれが見つかるらしい
兎に角勝てば良い、そうすれば何がどうなっているのかわかる


「ロン」


三暗刻の手配を倒した時から、勝負はアカギに傾き始める






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