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「待ってくださいっ」



アカギは人と足並みを揃えたことが無かったので、足の短い水野がバテてしまった


「どうした」

「歩くのが、早いです…」


息を切らして付いて来ようとするが、何度やっても距離が出来てしまう
耐えきれなくなった水野がアカギの手を取った
手を繋いでいれば自然歩幅が合う


先刻昼飯を食べ終え、未来の東京をちび水野が見たいとせがむので軽く散歩をしていた


「あれはなんて読むんですか」

「カフェ」

「かふぇ」

「喫茶店」

「なんですか、それ」

「コーヒー飲んだり出来る軽食屋」


思えば昔の自分もよく水野に質問をしていた
一つ一つよく飽きずに説明したものだ

それにしてもこの子供はよくものを知らないというか、町を歩き慣れないのか、往来を歩く他人を気にしてそわそわしている

水野は店の前の食品サンプルを見ていた


「ここ、入りたいです」

「いいよ」


暇潰しに丁度良い
子守りはしたことがないので、どうやって面倒を見たらいいのか困っていた
店員に案内されて対面に腰かける
水野はメニューを見て、あれこれ聞いては、何を頼もうか検討している


「決まった?」

「はい」


コーヒーとオレンジジュース、いちごパフェを注文した
見慣れない店内をきょろきょろしている少女にアカギが話しかける


「さ、負けた負債を払ってもらおうか」


アカギの一言で水野が大人しくなった
張り付けた無表情の仮面、これが本来の彼女の大人と接する態度なのかもしれない


「…何から話せばいいのでしょう」

「旦那様ってのはどんな人」

「私の面倒を見てくださいます、代わりに身の回りのお世話をしています。よくわからない人です」


この小さい子供に何が出来よう
「身の回りのお世話」のところで視線が逸れた


「どれくらいの付き合い?」

「旦那様は一年もすると変わります。飽きるみたいです」

「…そう」

「早く帰らねばなりません」

「俺が次の主人になるって言ったら、どうする?」

「…帰る術がありませんから、お望みなら…」

「…冗談だよ。帰れなくても無条件で養うから安心しな」


頭に手を乗せると、恥ずかしそうに頬を赤くした
転々と居場所を変えることは自分もしている
自分の力のみを頼りに生きていくには、信じられるものが無ければならない
こいつは流れるままに生きているから、このままではいずれ死ぬだろう
仮面の奥の諦めと悲観をアカギは見抜いている

子供時代の水野の魂の弱さに失望する自分と、この不安定な子供を満たしてやりたいという相反する考えが浮上する

未来の水野にある強度はどこで生れたのか、気になった


「なんとなく、わかるんです。貴方はいい人です」

「ただのチンピラさ」






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