FREAK OUT | ナノ


「全員、集まったようだな」


FREAK OUT本部、第一会議室。その中央に据えられた円卓を囲む面々を見渡し、最後に入室してきた壮年の男が上座に腰掛けた。これで、席に着いたのは六人。入口前に立つ、男の補佐官たる青年二人は、錚々たる顔ぶれを前に、静かに息を呑んだ。


「それでは、FREAK OUT緊急支部長会議を始める」


此処にいるのは、統轄部司令官の一人である男に集められた、FREAK OUT支部を担う五人の支部長。人類避難区域の中でも、特にフリークスの侵入が多い五つの地区を守護すべく設営された各支部を統率する能力者達だ。

FREAK OUTに身を置くものならば、この五人の名を知らぬ者はいないだろう。何れもジーニアスにも劣らぬ高い実力と実績を持ち、良い意味でも悪い意味でも有名な五人。其処に統轄部の司令官が加わったのだ。これを壮観と言わずなんと言おう。補佐官二人の手のひらに緊張が滲む中、司令官は厳粛な面持ちで口を開いた。


「さて、今回集まってもらったのは――」

「おっと。皆まで言わなくていいぜ、司令官殿」


が、それは横から無遠慮に遮られ、司令官の表情と場の空気が、ぴきりと強張った。声を挟んだ張本人はそれに一切構うことなく、椅子の背凭れに嵩高に上体を預ける。


「どーせ、実野里……だったか?例の一般人の家で苗床作りやがったフリークスについて、だろ?散々催促されてきてんだ、予想つくぜ」


わざとらしく首を傾げ、煽るような物言いをしてみせたのは、散々催促された意趣返しの心算なのだろう。司令官は今にも舌打ちしそうな顔をして、ニタニタと愉しそうに顔を歪める男を睨み付けた。


「……分かっているのなら、何故今日まで何の成果も出せていない唐丸(カラマル)」

「こっちも探しちゃいるが、そう簡単に見付かるもんじゃあねぇんだよ。それに、ただでさえFREAK OUTは年中人手不足なんだ。てめぇの担当地区に来たかも分かんねぇ≪花≫探しに、人手も時間も割いてらんねぇっての」


燃えるような赤い髪と、同じ色をした派手なシャツをスーツの下に纏う男――唐丸は、円卓の上に脚を乗せ、詼諧としてみせたが、誰もその不躾を咎める事も無く。寧ろ同調するかのように、笑い声がもう一つ、唐丸の蓮向かいの席から会議室に響いた。


「まったく困ったものだな。管轄外の我々まで探索と討伐を要求される事になるとは」


嫌味と毒気をふんだんに含んだその声は蛇のような陰湿さを持ち、隠す気もない侮蔑と嘲謔を塗りたくった言葉を、狙い澄ました相手へ突き立てる。

誰が噛み付かれているのかは、明白だった。露骨に視線を向けられ、晒し者にされているのは、本件の担当であった筈の男――慈島だ。

今回の招集の意図を、他の面々――いや、彼等以上に把握していた慈島は、浅く息を吐きながら、此方を嘲弄する相手を酷く白けた眼で見据えた。


「担当者は何をしているんだか。一家丸々フリークスにやらせ、苗床まで作らせた挙句≪花≫を取り逃がすとはな」

「……自分の担当地区からフリークスを逃がした奴の発言とは思えないな。それは、自虐か?在津(ザイツ)支部長」

「随分口が達者になったな、”怪物”。喰ったフリークスに、言い逃れの上手い奴でもいたのか?」

「やめろ、在津サン。……慈島も、食って掛かるな。身内で喧嘩してる場合じゃないだろうが」

「潔水(イサミ)さんの言う通りです」


水面下に収まり切らず、波を立てようとする二人を青い髪の男が宥めると同時に、円卓唯一の女性が凛とした声を上げた。


「私達が話すべきは≪花≫への対抗策です。これ以上犠牲を出さないよう、最良最速の案を考えましょう」

「相変らずの”聖女”っぷりだなァ、栄枝(サカエダ)。一体何食ったらそんな真っ直ぐな御心になれるんだか」


第一支部長、潔水業吉(イサミ・ナリヨシ)
第二支部長、在津巧二(ザイツ・コウジ)
第三支部長、唐丸忍(カラマル・シノブ)
第四支部長、慈島志郎(イツクシマ・シロウ)
第五支部長、栄枝美郷(サカエダ・ミサト)

FREAK OUT支部を一任され、各事務所の能力者を統率する五人。

この地位に就いている故か、何れも実力に比例した灰汁の強さを持ち、それらが衝突する度、司令官の顔に憤懣の相が浮上して、補佐官二人は背筋が凍り付くような思いがした。それを五人は意に介す事無く、己の意見を通すべく侃々諤々としている。


「実直と愚直は似たものだ。相手がどういう手合いか碌に知らない者と話した所で、最良最速の案など出てはくれんだろう」

「相手は今、何処に居るのかも分からない≪花≫。しかも、あの苗床の形状からするに……奴だろうなぁ」

「支部長の座に就いて数年程度のお前は知らんだろうがな……あれは、他の≪花≫とは違う。奴に対し我々がすべきは、最良でも最速でもはない。最善だ」

「……十怪、ですか」


在津に虚仮にされ、やや不満の色を見せた栄枝だが、彼女は言われる程無知ではなく、察しも悪くはなかった。


「確かに、私は未だ対峙したことはありませんが……しかし、FREAK OUTは常に不知不測との戦いです。如何なるフリークスが相手であろうと、するべき事、やるべき事は同じ……。一人でも多くの人を救い、一秒でも早く平穏を手に入れる為、私達能力者の義務を全うする事。そうではありませんか」

「ところがどっこい、そうもいかねぇのさ」


ただ、若くして支部長の地位に就いた彼女には、他の面々に比べ経験に欠けていた。尤も、其処を補っても余りある物を持ち合わせているが故に、栄枝は此処にいるのだが。潔水は軽く肩を竦め、厚ぼったい目蓋を中程まで下ろして、続けた。


「十怪と呼ばれる域にまで成長したフリークスが、FREAK OUT創設から今日まで討伐されたのはたった四体。三十年前、”英雄”・真峰徹雄が単独で屠った一体を除き、何れもジーニアスや支部長クラスの能力者を数多く犠牲にしての討伐になった。しかも、今回のターゲットは、発見からこれまで一度も代替わりしていない十怪……カイツールだ」


十怪というのは「現存するフリークスの中で最強の十体」の総称である。それを定めているのは人類側ではなく、その存在が明らかになったのも、十怪の配下を自称するフリークスの出現と、ジーニアスの遠征報告からだった。

彼等は侵略区域にそれぞれの縄張りと、眷属と呼ばれるフリークスを有している。十怪は常に十体存在し、欠員が出れば≪花≫の中から新たなフリークスがその座に選ばれ、先代の名と縄張りにあるもの全てを受け継ぐ。こうして、何者かの意思によって揃えられたフリークスの中のフリークス。それが十怪だ。


彼等は滅多に人類避難区域に現れず、狩りや侵攻の殆どは彼らの眷属によって行われる。これは不要な戦闘を避ける事で核に蓄えたエネルギーの消費を防ぐ為、彼等が本気を出して攻め込めば餌となる人類が容易く絶滅してしまう為、クリフォトを守護する為など、様々な理由が考察されているが、実正は定かではない。

ともあれ、彼等は概ね侵略区域から動く事は無い。だが、それも確約されたものではなく、彼等は気まぐれに海を越え、災害の如く人類に襲い掛かる。時に無作為に暴れて破壊の限りを尽くし、時に闇に潜んで悪意の≪種≫を植え、時に気ままに衝動のままに人を喰らう。

そんな十怪に対し、FREAK OUTは幾度となく挑んできたが、先刻潔水が語った通り、今日まで討伐された十怪は四体。その四体のポストにも、新しいフリークスが就いているが――件のフリークスは、未だかつて一度も討伐された事がない、カイツールの名を持つ十怪であった。


「お前でも分かるだろう、栄枝。これまで一度も代替わりしていないという、その意味が」


人を喰えば喰う程力を蓄える特性上、長い時を生きている程、フリークスはその脅威を増す。苗床の形状から特定される程度に人類避難区に赴いていながら、未だ生き長らえ、今も人を喰らい続けているカイツールが、どれ程厄介なものか。わざわざ説かれずとも、今日までフリークスと戦ってきた栄枝には十分理解出来る。かと言って、此処で素直に頷く事は、彼女の正義が許さなかった。


「……それでも、何時か倒さなければならない相手には違いありませんし、それ程の脅威であれば、尚更早く討伐する必要があります。来襲している個体も判明していますし、此方側に居るのであれば、対策は十二分に出来る筈です。各事務所で結託し、我々に有利な場所へ追い込んで、選抜されたメンバーで挑めば、きっと……」


こうしている間にも、カイツールは帝京の闇に潜み、悲劇と惨劇をばら撒いている。標的が腹を満たし、繁殖を終え、かの地へと逃げ帰る前に、戦略を練って兵を整え、彼を討つべきだ。栄枝の主張は至極真っ当であったが、他の四人からすれば、それは理想論だった。


「こっちの動きを奴に悟られ、市街で暴れられる事が無いと言えるなら……な」

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