FREAK OUT | ナノ


ぼとん、と重い音を立てながら、レンゲの上に乗せていた餡かけ豆腐がテーブルに零れる。


今、この人は何と言った。


頭の中で乱反射する言葉に思考を掻き乱され、愛は何も乗っていないレンゲを持ったまま硬直した。その様子を見て、慈島は話を切り出すのが唐突過ぎたと解釈し、一から順立てに伝えなければと軽く咳払いをした。


「待機休暇中こっちに戻ってくれって頼んでおきながら、何もしてあげられてなかったから……。今更かもしれないし、迷惑かもしれないけど……愛ちゃんさえ良かったら、と思って」

「え、あ……あの……」

「誕生日の時みたいに、買い物行ったりとか、ご飯食べたりとか……そういうのさせてもらえたらな、と思うんだけど」

「い、慈島さん!?」

「俺の自己満足だから、ほんと……気が向いたらとかでいいから」

「いや、そ、そんなノリで決めていいことじゃ」

「そう……だよね。うん……愛ちゃんにも予定とかあるだろうし……よく考えて、答えが決まったら教えて」


答えは、最初から決まっている。けれど、本当に彼の申し出を受け入れていいのかと、胸の中で言葉が痞える。

喉から手が出るほど欲しいのに、齧り付けない。自分には、彼に想われるだけの価値も、資格も無いからだ。

正真正銘の”新たな英雄”となり、責務を全うし、使命を成し遂げるまでは、何も求めてはいけない。そう心に決めていたのに、彼から求められては、揺らがざるを得ない。
例えそれが憐憫や贖いであっても――いや、だとすれば彼は自分の想いに気付いていたというのか。

一体何時から。明言していないだけで隠せていたとは思っていないが、彼がそれを気取っていた様子は無かったのに。

零した豆腐を片付けることも忘れ、愛はぐるぐると思考を巡らせる。脳の形を意識させられる程、頭が重くて熱い。処理落ち寸前の機械のようだと愛が混迷に眼を回す中、茶碗が空になった慈島が席を立った。


「俺がそうしたいだけだし……遠慮しないでね。RAISEの卒業祝いと、FREAK OUT入隊祝いもあるから」


そう言って彼が台所へ歩を進めた所で、愛は蚊の鳴くような声量で「ですよねぇ〜……」と呟いた。

薄ら、そうではないかと思っていたのだ。そして、そうであってほしいとも思っていた自分を呪いながら、愛はティッシュ箱に手を伸ばした。

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