FREAK OUT | ナノ


眠りに就くことが、恐ろしくなった。

朝目覚めた時、自分が自分で無くなってしまうような気がして、慈島はこの二日間、睡眠を摂ることを止めていた。


明後日には、愛がジーニアス隊舎に戻る。

彼女が此処を離れるまでは、慈島志郎という人間を保っていたかった。その為の、不毛な抗いだった。


(これが深化の影響による一過性のものなら、まだいい。だが、もしこれが今後続くものだとしたら…………君は、愛くんから離れた方がいい)


あれから、慈島の中の衝動は息を潜めている。夢にまで見たあの悍ましい欲求も、まるで最初から存在していなかったかのように抜け落ちている。
白縫から処方された薬の効果、ではないだろう。きっとこれは、慣れだ。

知能を持つフリークスは、己の飢餓感をある程度コントロール出来る。気の向くままに喰い荒らしては、能力者との戦闘になるからだ。それを厭わぬ個体もいるが、凡そ物を考えられるフリークスは空腹時の衝動を押さえ、人を食うのに適した状況が出来るまで尻尾を隠している。

自分も、あれらと同じように強い飢餓感に慣れただけなのだ。


未だ、獣は息衝いている。それは何かの切っ掛けで眼を覚まし、慈島の理性を跡形も無く蹴散らして、彼女に牙を剥くだろう。
その時が、愛が此処に居る内に来てしまうことだけは避けたくて、慈島は目蓋を閉じることを止めた。

皮肉なことに、一日二日の不眠では体調面に影響が出ることは無く、一切の睡眠を摂っていないことを愛に気取られることは無かった。だが仮に睡眠不足の色が顔に出ていたとしても、彼女は気付かなかったのではないかと慈島は思う。

本部から戻って以降、慈島と愛はろくに眼を合わせず、会話の数も明らかに減っていた。
お互い、どんな顔をして相手と向き合えばいいものかと気まずさを引き摺り、無為な時間を過ごし続けていた。


各々理由は異なるが、とても相手に顔向け出来る状況ではないと最低限の視線と会話だけを交わして二日。いよいよ明後日には愛が此処を出て、ジーニアス隊舎に帰ってしまう。

これがきっと最後になるというのに、このまま彼女を見送っていいものか。否、それだけは断固あってはならない。
自分と一緒に居られるだけで良いと言ってくれた彼女を、孤独を植え付けたまま送り出すことなど。そんなことは決して許されない。


――腹を括れ、慈島志郎。


徳倉に言われたことを思い出しながら、慈島は殆ど自棄に近い勢いで口を開いた。


「俺と付き合ってくれないか、愛ちゃん」

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